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【Onlooker】~サラが見たもの~
第2章 ラブリーな、彼女?
訪れた場所は、都心から車で三十分ほど。郊外の住宅街に建つちょっと古びた印象の否めない賃貸マンションである。
その近くの道に車を停車した黒木に伴われて、オートロック設備のないそのマンションの六階へと上がった。そうしてクライアントが待つであろう部屋のドアの前に立つと、黒木がインターホンを押す。
程無くして「はい」と男の声で応答があり「ヤマダさん、失礼いたします。こちら、オンルッカーですが」と、黒木が伝えた。
そうしてドアの反対側でガサゴソとした音が聞こえると、徐にドアが開かれている。そこから顔を出したのは、何処か暗い眼差しの男であった。
その男――ヤマダは黙って黒木とその背後に立つサラを一瞥すると、「じゃあ、よろしく」と無愛想に伝え黒木に何かを手渡す。チャラとした音を鳴らしたそれは、どうやらこの部屋の鍵のようだった。その理由については、この部屋に来る前、黒木から聞かされていた。
「俺は客の了解を得て部屋の鍵を預かり、近くで待機することになっている。お前になにか危険が及ぶようなら、すぐに駆けつけるためだ」
「でも、危険かどうかなんて、外からじゃわからないんじゃ……? 私、スマホとか持ってちゃいけないんですよね」
それは万一にも、クライアントの行為の映像や音声を残さない為。前回の研修時に、零子より聞かされていた。
「ああ、そうだよ。だから、コレを持ってけ」
「なんです……?」
サラが手渡されていたのは、中央に押しボタンがひとつあるだけの卵型のプラスティック製品。それを手にして不思議そうにしていたサラに、黒木が説明を加えた。
「防犯ブザーだよ。スマホ連動タイプだから、なにか危ないと感じてお前がそれを押せば、俺にその危機を報せることができるってわけだ」