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【Onlooker】~サラが見たもの~
第2章 ラブリーな、彼女?
「……!」
もちろん「里帰り」と耳にして、即座にその意図を租借できるわけもない。が、寂しげなヤマダの言葉に、サラはなんとなくおおよその処を察しようとした。
『彼女たち』にとっての『里帰り』とは、生産された工場に送り返すことを指している。とても精巧につくられたラブドールは、仮に不要になったからとはいえ、粗大ごみとしては扱い難く。
そんな主人(ユーザー)の気持ちに、応える形なのだろう。
「つまり……今夜で、お別れということになる」
そう告げたヤマダは、メガネの奥の瞳にうっすらと涙を浮かべいるように見えた。
「どうしてですか? そんなにも、大事になさっていたエリーさんを」
手放す理由を問うたサラに、ヤマダは淀みなく答えた。
「結婚を考えている、相手がいるんだ」
あ、そっか……!
そう聞いてしまえばサラとて、もう納得するより他はない。妻を娶ろうとする男が、ラブドールを所有しているわけにもいくまいと、普通に思うから。
そう考え言葉を詰まらせたサラを見て、ヤマダは自嘲気味な笑みを浮かべた。
「人形を愛する気味の悪い男に、婚約者がいるなんて、さぞ不思議に思ったかな?」
「いえいえ! そんな風に思ってませんし……」
「いや、いいんだ。自分自身が一番、驚いているのかもしれない。実際に三十余年生きて来て、恥ずかしながら生身の女性を近しく感じたのは初めてのことでね」
ヤマダはぎこちない笑みを浮かべ、そう話している。