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隷吏たちのるつぼ
第3章  第二章 遅れた服罪
 カウンター越しにニヤニヤと覗き込む征四郎がファーストネームを呼び捨てにしたから、智咲は慌ててみどりのほうを見た。同じ制服を身に纏っているが、まるで着こなしの異なる中年の女は、比較されて貶されたにもかかわらず、征四郎へ会釈だけして、相変わらず真っ直ぐに前を向いていた。

「今日は黒いパンストなんだな。なんだ? オトナになったからって、そんなセクシーなの履いてきたってわけだ」
「ちょっと、やめてください」
「やめてって、『インフォメーション』って書いてあんじゃん。市民の質問に答えるのは義務だろ?」
「……」

 みどりを前に何を言われるかわからないから、早く立ち去らせなければならないし、征四郎が親しげに話しかけてきている様子を他の誰かに見られでもしたら、その理由が取沙汰されかねない。

 智咲はチェアに座り直して背筋を伸ばすと、自分なりの、案内嬢としての居住まいへと正した。咳払いをし、少し間を置いて気分を落ち着かせる。

「ど、どういった御用件でしょうか」
「用件? そうだなあ、……今日、どんなパンティ履いてんの?」
「……っ」
「パンティだよ、パンティ。制服姿で澄ましてる本山智咲ちゃんが、今日履いてるパンティ教えてよ。こないだは水色のカワイイやつだったよなぁ」
「へ、変なことを言うのはやめてください!」

 声がホールに響き、その大きさに自分で怯えて、黒目を周囲に巡らせた。
 智咲を見て頷いた征四郎は、

「……そうそう。デッカい声出したら誰かに聞かれちまうだろ?」

 そう言って横手からブースの中へと入ってきた。

 大胆な行動に、智咲はキャスターを転がして征四郎から逃れようとしたが、コツン、とみどりのチェアに当たって阻まれた。

「大澤さんっ……」

 みどりは前を向いたままだ。まさか──

「みどり、見張ってろ」
「はい」

 征四郎の指示に、同僚は絶望的な返事をした。

「あっ……」

 征四郎がカウンターの下に潜り込み、正面へ蹲った。暗みの中から迫る顔は、一昨日に見せつけられた、溢れんばかりの下欲が滲んでいた。
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