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隷吏たちのるつぼ
第4章 第三章 詭謀の酬い
「ああ、これは……」
すぐさま課長補佐が立ち上がり、窓口に立つムサくるしい男の方へ速足で向かった。「淵上は本日は不在のはずですが……」
会計管理者の名が出たが、男は毛深い腕を振り、
「いやいや、今日はここに用事があってさ」
キャップを取ると、散らかった前髪が額に貼り付いていた。
「あれって、もしかして……」
小声で正面の先輩に問うと、人差し指を立てられた。キーボードがカタカタと叩かれ、メッセンジャー通知がポップアップする。
『ピンポーン 篭山のバカ息子w どーせならシブメン社長の兄貴が来てくれっつーの!』
文面を読み、二人でふき出した。
侮笑のネタにされていることも知らず、征四郎は課長補佐の二の腕をポンポンと叩き、
「表の公示見たよ。K駅前の市営アパートの補修ってさー、随契にできなかったの? ウチ以外にできるとこないっしょ」
と、デリケートな話を周囲の耳を憚らずに向けた。
高額な建築工事を、いまどき随意契約になんてできるわけがない。どうせどんな入札も、篭山開発が手を回して、一社入札を避けるために当て馬を整えた上で札を入れるくせに。つまりは篭山の力を、そんなに人数がいるわけでもない、この室内で誇ろうとしているのだ。N市近隣の出身だから、むろん悪名は聞いたことがあった悠香梨だが、征四郎を生で見るのは初めてだった。どうやら噂通りの男らしい。
「はは……、ご冗談を」
課長補佐は愛想笑いで受け流し、「それでは、今日はどういった御用件でしょうか?」
「ああ、そんなのどうでもいいんだった。……あのさー、ちょっと知り合いが市営住宅に入りたがってんだけど、話聞いてくんない?」
「篭山さんのお知り合いの方ですか? まあ、とにかくこちらへ」
相談カウンターを勧められ、征四郎はドッカリと椅子に腰を下ろした。
だが、対面に座ろうとした課長補佐は制された。
「あ、いいって。忙しい課長さんの手、止めさせるわけにもいかないじゃん?」
課長と課長補佐の区別もついていない征四郎が執務室を見回してきた。……目が合ってしまった。
「おっ、新人さんだね。じゃ、あの子に説明してもらおっかな。OJTってやつ?」
すぐさま課長補佐が立ち上がり、窓口に立つムサくるしい男の方へ速足で向かった。「淵上は本日は不在のはずですが……」
会計管理者の名が出たが、男は毛深い腕を振り、
「いやいや、今日はここに用事があってさ」
キャップを取ると、散らかった前髪が額に貼り付いていた。
「あれって、もしかして……」
小声で正面の先輩に問うと、人差し指を立てられた。キーボードがカタカタと叩かれ、メッセンジャー通知がポップアップする。
『ピンポーン 篭山のバカ息子w どーせならシブメン社長の兄貴が来てくれっつーの!』
文面を読み、二人でふき出した。
侮笑のネタにされていることも知らず、征四郎は課長補佐の二の腕をポンポンと叩き、
「表の公示見たよ。K駅前の市営アパートの補修ってさー、随契にできなかったの? ウチ以外にできるとこないっしょ」
と、デリケートな話を周囲の耳を憚らずに向けた。
高額な建築工事を、いまどき随意契約になんてできるわけがない。どうせどんな入札も、篭山開発が手を回して、一社入札を避けるために当て馬を整えた上で札を入れるくせに。つまりは篭山の力を、そんなに人数がいるわけでもない、この室内で誇ろうとしているのだ。N市近隣の出身だから、むろん悪名は聞いたことがあった悠香梨だが、征四郎を生で見るのは初めてだった。どうやら噂通りの男らしい。
「はは……、ご冗談を」
課長補佐は愛想笑いで受け流し、「それでは、今日はどういった御用件でしょうか?」
「ああ、そんなのどうでもいいんだった。……あのさー、ちょっと知り合いが市営住宅に入りたがってんだけど、話聞いてくんない?」
「篭山さんのお知り合いの方ですか? まあ、とにかくこちらへ」
相談カウンターを勧められ、征四郎はドッカリと椅子に腰を下ろした。
だが、対面に座ろうとした課長補佐は制された。
「あ、いいって。忙しい課長さんの手、止めさせるわけにもいかないじゃん?」
課長と課長補佐の区別もついていない征四郎が執務室を見回してきた。……目が合ってしまった。
「おっ、新人さんだね。じゃ、あの子に説明してもらおっかな。OJTってやつ?」