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隷吏たちのるつぼ
第4章  第三章 詭謀の酬い
(げ……)

 先輩が素早くキーボードを叩く。

『あーあ見つかっちゃった。。。 日下ちゃん絶対しつこく誘われる まともに相手したらダメだからね 誘われてもガン無視!』

 先輩を見ると、追加で送られてきた顔文字と同じ、目を閉じた小さな合掌をされた。

 悠香梨は仕方なく相談席へ向かった。近づいていく間も、ジットリとした目線が体を襲ってくる。遠目からでもヒクヒクと団子鼻が蠢いているのがわかった。

(ニオイ嗅いでんじゃねーよ、ハゲ)

 失礼します、と言って着座すると、征四郎は身を乗り出すように悠香梨を凝視してきた。背後で執務している同僚たちの様子は伺えないが、公開視姦されている自分を憐れんでいるに違いなかった。

「君、キレイだねぇ。えっと、日下悠香梨、ちゃんか。いくつ? 二十二?」

 名札を見るフリをして、バストを見ている。眉を寄せ、ふっ、と鼻から息を吐いたのをわざと聞かせると、

「ご相談内容をお聞かせ願えませんか?」

 と棒読みで言った。

「おー、新人さんなのに優秀じゃん」
「ありがとうございます。それで?」
「ああ、俺の知り合いの、何て言うの? シングルマザーなんだけどさ。母親ボケちゃったらしくて、デイサービスから近い家に引っ越したいんだと。ガキもまだ小せえしさぁ、いろいろ大変みたいなんだよね」

 相談内容は案外まともだった。悠香梨はマニュアルを開き、

「入居希望の方の年収、おわかりになられますか?」
「ああ、収入証明でいい?」
「はい」

 征四郎が尻ポケットから出したコピー紙は汗で湿っていたから、顔をしかめそうになるのを我慢し、なるべく触れる指を少なくして開いた。

 所得が少ない。市営住宅は低所得者のための住民サービスだが、まさに悠香梨が追われている滞納を未然に防ぐために、応募資格には最低所得も定められている。

「審査に通るのは厳しそうですね。先に生活保護と修学援助を申請されたほうがいいと思います」
「えー、そうなの? ちょっとは身内を助けてやってよ。やまのくらし会館で受付やってる女だぜ?」

 智咲の職場だ。そういえば当選者説明会に行った時、リンゴを渡す魔女のような中年女が隣に座っていた。彼女のことだろう。
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