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鬼ヶ瀬塚村
第22章 真理子
鬼流しの湯は静かに湯気を立ち上げながら辺りの空気を熱くさせていた。

手製の脱衣場に大きなランプがぶら下がっている。
真理子さんはそこへ火をつけた。
マッチの懐かしい香りがする。

『ほらぁ、さっさと脱いでよ。背中流してあげる』

『良いよ、自分でやれるよ』

『素直じゃないなぁー食べちゃおうかな?』

『冗談でも止めてよ…』

僕は嘔吐まみれで埃まみれのジャケットコートを脱いだ。

『やぁだ、お尻ザックリ切れてるわよ』

真理子さんはニヤニヤしながらジャケットコートをつまみ上げた。

『無我夢中だったからね』

『ノブがお父さんから逃げ出すとこ見たかったなぁ!きっと漫画のネタになったのに…』

『酷いな』

僕は桶に鬼流しの湯をすくうと肩から全身にかけた。

今更ながらあちこちの傷がしみた。
黒い泥が僕から剥がれ落ち、足元に流れていった。

僕は静かに湯船に浸かった。

真理子さんは脱衣場の手前にある竹で出来た長椅子に腰かけていた。
膝に肘をあてて両手で頬を支えている。

『湯加減はいかがかな?』

真理子さんがニヤニヤしながら言った。

『ちょっと熱いかな』

『そりゃ結構。私も入ろうかな、汗びっしょり』

『誰かに見られたらどうするの?』

『誰も見ちゃいないわよ』
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