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ヒロイン三国ファンタジー
第14章 14 英雄たちの死・1
 入蜀してから独り身である玄徳は夫人を娶る様にと群臣に勧められる。
立場上、形式として夫人が必要とはなったが、女人であるため妻を娶ることは難しく感じていた。
息子の阿斗には自分が母親だとは知らせておらず、優しく抱きしめるよりも父親として毅然とした態度で接しているため、孫夫人が去ったのち彼は寂しそうな表情を良く見せる。

 あるとき玄徳を入蜀させ、ホウ統の死後、軍師として仕える法正孝直が縁談の話を持ってきた。孫尚香のように敵方ではなく同じ蜀内の女人であったが、同じ劉姓の未亡人であるため、ためらわれた。

「法正よ、同姓婚は禁忌である。それに知っての通り私は女人だ。相手のお方も嫌であろう」
「いえ、我が君。晋の文公の前例がございます。それに呉氏は――気の毒なお人なのです。どうぞ一度だけでもお会いになってから決めていただきますよう」

「ふむ。では一応お会いしよう」


 玄徳の返事ですぐさま未亡人である呉氏が呼ばれた。呉氏は小さくなり袖で顔を隠したまま額を床につけている。

「そのように畏まられなくてもよいのですよ。面を御上げなさい」
「はい」

 蚊の鳴くような声で顔をあげるがまだ袖で顔を覆う様子に、玄徳は不審に思い、座を立ち彼女に近寄った。

「どうしたのですか? そのようにおびえて」
「す、すみません、すみません。お許しをっ」

 また呉氏はひれ伏す。
玄徳は袖の隙間から見える額にあざと、毟られて抜けた髪の毛の跡を見つける。
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