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ヒロイン三国ファンタジー
第18章 18 北伐
蜀では最後の五虎大将軍である趙雲子龍の命が燃え尽きようとしていた。
「丞相、多忙な身で、わたしの側にいてくださるとは」
「よいのだよ、子龍。そなたはいわば私の一番の親友であったと思う」
「ああ、なんとありがたいお言葉」
趙雲は玄徳の死後も、諸葛亮に誠実に仕え、最も高い信頼を得ていた武将だ。恩賞を与えても受け取らず、備えとするようにと進言するまさしく忠臣である。また玄徳軍の最古参である彼が亡くなることは諸葛亮にとって深い悲しみであった。
「最後は戦場でと思っておりましたが……」
「いや。傷だらけで玄徳様のもとへ参るわけにいくまい」
「フフッ。そうですね。ああ、玄徳様……」
老いた趙雲に青春の輝きがよみがえる。
「子龍殿が唯一玄徳様の夫でありましたな」
「……。しかし玄徳様の魂を理解し、受け継ぐのはあなたしかおりますまい。わたしをそばに置き抱きしめさせてはくれるが玄徳様はいつも軍師殿を求めていました」
「子龍……」
「つまらぬ嫉妬ですな。いつもいつもわたしは彼女を連れてどこか平穏なところで暮らしたいと願っていました。でもあの方はただの女人ではない。そんなことをした途端にわたしを見限るでしょう」
趙雲の思いに諸葛亮は胸を打たれ、まこと彼は玄徳を愛していたのだったと知る。本来の希望を胸に抱きながら、彼女の意思を尊重し支え守る。なんと鋼鉄の意志であろうか。
玄徳が死ぬまで誰も娶らず、財産も地位も欲しなかった。
「でも来世では夫婦となり一緒に田畑を耕そうとお約束くださいました」
「ああ、子龍。私がその希望を叶えるべく尽力を上げて天下に太平たらしめよう」
「ありがとうございます。もう思い残すことはありません。劉禅様をよろしくお願いいたします。――ああ、ひとつだけ。魏延にはお気をつけてください。根が悪い奴ではないのですが玄徳様を愛するあまり……」
「ああ、知っておる。誤解して私を目の敵にしておるのだろう。呉での大敗を防げなかったことを……」
「どうかお気をつけて。そしてくれぐれもお身体を大切に」
「わかった」
「わたしは休みます」
「ああ、また明日」
もう今夜が峠であろうと諸葛亮は羽毛扇で涙を隠す。彼は一人静かに玄徳を想いながら逝くのであろう。
その至福の時を邪魔しないように、諸葛亮はそっと扉を閉め安らかな眠りを祈った。
「丞相、多忙な身で、わたしの側にいてくださるとは」
「よいのだよ、子龍。そなたはいわば私の一番の親友であったと思う」
「ああ、なんとありがたいお言葉」
趙雲は玄徳の死後も、諸葛亮に誠実に仕え、最も高い信頼を得ていた武将だ。恩賞を与えても受け取らず、備えとするようにと進言するまさしく忠臣である。また玄徳軍の最古参である彼が亡くなることは諸葛亮にとって深い悲しみであった。
「最後は戦場でと思っておりましたが……」
「いや。傷だらけで玄徳様のもとへ参るわけにいくまい」
「フフッ。そうですね。ああ、玄徳様……」
老いた趙雲に青春の輝きがよみがえる。
「子龍殿が唯一玄徳様の夫でありましたな」
「……。しかし玄徳様の魂を理解し、受け継ぐのはあなたしかおりますまい。わたしをそばに置き抱きしめさせてはくれるが玄徳様はいつも軍師殿を求めていました」
「子龍……」
「つまらぬ嫉妬ですな。いつもいつもわたしは彼女を連れてどこか平穏なところで暮らしたいと願っていました。でもあの方はただの女人ではない。そんなことをした途端にわたしを見限るでしょう」
趙雲の思いに諸葛亮は胸を打たれ、まこと彼は玄徳を愛していたのだったと知る。本来の希望を胸に抱きながら、彼女の意思を尊重し支え守る。なんと鋼鉄の意志であろうか。
玄徳が死ぬまで誰も娶らず、財産も地位も欲しなかった。
「でも来世では夫婦となり一緒に田畑を耕そうとお約束くださいました」
「ああ、子龍。私がその希望を叶えるべく尽力を上げて天下に太平たらしめよう」
「ありがとうございます。もう思い残すことはありません。劉禅様をよろしくお願いいたします。――ああ、ひとつだけ。魏延にはお気をつけてください。根が悪い奴ではないのですが玄徳様を愛するあまり……」
「ああ、知っておる。誤解して私を目の敵にしておるのだろう。呉での大敗を防げなかったことを……」
「どうかお気をつけて。そしてくれぐれもお身体を大切に」
「わかった」
「わたしは休みます」
「ああ、また明日」
もう今夜が峠であろうと諸葛亮は羽毛扇で涙を隠す。彼は一人静かに玄徳を想いながら逝くのであろう。
その至福の時を邪魔しないように、諸葛亮はそっと扉を閉め安らかな眠りを祈った。