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人魚島
第6章 早坂先生と恋人美沙
黙り込み赤丸を灰皿に捩じ込み、二本目の赤丸にスナックマーメイドのちゃちなピンク色のライターで火を付けて一気に吸い込む橘さん。
目が揺れていた。

『あいつは根っからのお人好しだ…俺が三咲に惚れてそいつが嫁さんにバレて離婚してから、あいつは罪悪感から俺に抱かれてるだけだ。義理感じるよ、あいつのセックスは正義感からのセックスで愛情からなんかじゃねぇよ、あいつは明さんに惚れてる、見てりゃ解るよ、あのフサフサ睫毛に囲まれたどでかい目玉がオマンコみてぇにビショビショなんだわ、解りやすいね』

そこまで捲し立て橘さんはギネスビールの空き缶を力任せにクシャッと潰し、ゴミ箱に投げ入れた。

『でも愛し合ってるんですよね?ほら…三咲さん…セックス中に『愛しとるけんッ』って凄い鳴くじゃ無いですか?』

『あれは口癖みてぇなもんだな、自分自身を高めるっつーかよ、自分自身を気持ち良くするっつーかよ、あいつは嘘付きじゃねぇが、褥の中じゃあ平気にホラ吹くよ』

自嘲しながら赤丸を灰皿に捩じ込みまた新たに一本取り出し唇に咥える橘さん。
掛ける言葉が見当たら無い。

『なんだって俺は最初に三咲にプロポーズせずに、大学時代の恋人貴子にプロポーズしちまったのかね?貴子は美人だったよ、三咲には劣るけどな、しかし家事やらは抜群だったよ。一時期さ明さんが半年ばかし帰って来ねぇ時があったんだ、太平洋に鮪追っ掛けてた時期だったかな。三咲と半ば同棲してたんだが、あいつゴミ出しすら出来ねぇ女なんだよ、クタクタになってよ、帰宅したって飯はねぇし、足元の踏み場がねぇくれぇ部屋は汚ねぇ、だから1ヶ月以上は無理でよ、すぐ追い出したんだよ』

『咲子みたいだな』

『あん?ああ、あいつ等は血は繋がっちゃいねぇけどよ、その辺りは似てるな』

『ハハハ…』とテノールボイスで笑う橘さん『小便』と立ち上がるが、ホロ酔いなのか足元が覚束無い。
トイレを流し『よッ』と段差をジャンプして橘さんが戻って来る。

『酒、進んでねぇな?刺し身食うか?鯵の刺し身食わしてやるよ、朝一に捕れたやつ、隣の親父さんに分けて貰ったんだ』

長い使い古された刺し身包丁を使いながら黴だらけのまな板の上で鯵の刺し身を作ってくれる橘さん。
醤油とポン酢をミックスし、掛ければ完成だ。

『食えよ?もう4時前だ腹減っただろ?俺も食うからよ』

『ありがとうございます』
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