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人魚島
第6章 早坂先生と恋人美沙
鯵の刺し身はプルプルに油が乗り、同時に暖かな瀬戸内の荒波に揉まれ引き締まり歯応えがあった。
美味い、そんな風に素直に思えた。

『敦の野郎に咲子盗られんなよ?あいつマリファナやってら、しかもシナチク産の汚ねぇやつだ。蓮があいつの赤神様だったからな、きっと蓮から譲って貰ったんだろ』

『どうしてそれを?』

『昨日蓮からマリファナの香りがフンワリしてたからさ』

『蓮さん覚醒剤切らしてるんですよね?大丈夫なんですか?』

『あん?ああ、あいつは大丈夫、慣れてるからな、ただ、幻覚やら幻聴がひでぇみたいだな、昨日だってよ客の俺の相手すらままならなかったよ、俺が身請けしてやりてぇが、俺には三咲がいるからなぁ、可哀想だが、仕方ねぇよ』

『どうして蓮さんは橘さんが好きなんですか?』

『知らねぇよ、なんか昔に頭トチ狂った時に入った病院の西村とか言うナースと声が似てるんだとよ、テノールボイスだとか言ってたな』

『ふぅん』

『まぁ、蓮からすれば俺は喉から手が出ちまう位惚れた欲しい男なんだろうが、酒しか呑まねぇ純潔の間柄だ』

『一度もセックスした事無いんですか?』

『あん?ねぇよ、笑わせんな』

笑いながら橘さんは赤丸を燻らせるのだった。

『お前鯛いるか?』

『え?』

『晩飯にいるかって聞いてんだよ、何度も言わすなよ?』

『良いんですか?』

『構わねぇよ、三咲の大好物なんだ、良く塩焼きにしたり刺し身にして食ったっけなぁ?プリプリしてて美味いよ?タッパーに入れてやるからよ、持って帰って花子辺りに捌かせて食えよ、お薦めは刺し身だな』

『解りました、ありがとうございます』

『愛する三咲の為だ、おめぇの為じゃねぇよ、そろそろ帰れや?宿題あんだろ?あん?それに、じゃしお前受験生だろ?こんな汚ねぇ男の独り暮らしの家で油売ってねぇで勉強しろよ』

『はい、橘さんは高校何処なんですか?』

『あん?清風高校だよ、偏差値70だよ』

『大学は同志社大学なんですよね?凄いなぁ』

『うるせぇよ、おら、夕立来そうだ、早く帰れよ』

確かにあれだけ晴れ渡っていたのに、空は生憎の曇り模様だ。
僕は鯛の入ったタッパーを前カゴに入れて魚沼家を目指した。
途端強く降り出した大粒の雨に僕は慌ててペダルをこいだ。
魚沼家に到着する頃には4時40分だった。
早坂先生と美沙さんが居間に居た。
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