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人魚島
第8章 能力
『僕には花子の事を幸せにしてやれ無い、僕は無力で非力な神様なんや。そもそも神様は元々太古昔は龍神の奴しか居無かったけん、龍神しか誰も崇めなかったのを僕が横槍を入れたんだ、だから、ほら』

ウオトがパチンッと軽く中指と親指の腹を擦り合わせ音を鳴らせば目の前に咲子と良く似た妖艶な美女が座っていた。

『私が魚人の場合もあるんだ』

可憐な声色、花子に似ている。
雌になったウオトは黒く長い髪の毛を手櫛しながら妖艶に笑いながら『続き見る?』と僕の目を見据えた。
僕は震えながらゆっくり頷く。
途端視界がぐら付きクラクラした。
まるでさながらウオトに触れた時の様な感覚が襲い僕はゆっくり目蓋を開いた。

『大丈夫か?』

喪服姿の橘さんが不思議そうに僕の顔を覗き込んでいる。

『酒、気晴らしにおっちゃんと呑むか?行ける口になったんやろ?もう夏休みの餓鬼や無いさかい、日本酒やるで?俺も泣きたいしな』

橘さんが立ち上がり『煙草吸うか?頭シャキッとなるぞ?』と赤丸の箱を差し出した。
おずおずと受け取りながらスナックマーメイドのライターで尖端に火を付けて吸い込んだ。
途端むせる僕。

『赤丸や、最初はそないなもんやけん、気にすんな、やし、三咲が殺気取ってるけん、俺のアパートで一杯やろや』

立ち上がる僕の肩を強く抱きながら軽トラの助手席に促してくれる橘さん。
僕は助手席にボンヤリ乗りながら赤丸を燻らせた。

『もう餓鬼や無いけん吸えるやろ?』

『はい…』

『ほな、出すわ』

ガタガタと二度三度揺れ軽トラが走り出した。
やがてアパートに辿り着けば中は見違える程小綺麗に片付いていた。
男の独り暮らしには到底思え無い決め細やかな部屋だった。
どうやらこの未来の橘さんは綺麗好きらしい。
猫が二匹寄り添っていた。

『まぁ、入れや』

座布団を敷きながら橘さんが冷蔵庫から日本酒を取り出し綺麗なピカピカのグラスを僕に差し出した。
迷わず受け取りながら僕は『ありがとうございます』と頭を下げた。

『で、春樹は仕事楽しいんか?』

『営業ですし、まだ慣れてませんし、パワーハラスメントだらけで正直死にそうです』

『大学は行かんのか?』

『え?』

『教育学部出ろ、ほんで教師やれや?』

『無理ですよ、一介の三流高校ギリギリ卒業なんですから』

『今から勉強にしたら間に合う筈やろ?』
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