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人魚島
第9章 枝分かれの現実
『昔はよく船も行き来してたから灯台があったんや、やけどな俺を怒らせたけん、この辺りの渦潮を激しくしたったんや』

ブラックデビルを燻らせながらシンイチが灯台の跡の台座に腰掛け長い脚を組んだ。

『渦潮を?何故?』

『アホたれどもが俺の縄張りをゴミで汚すからや』

『海水汚染ですか?』

高さ90メートル、突風が激しい。

『ああ、最低な時はプランクトンがようけ繁殖しやがって赤潮まで発生したわ、やから、この辺りを使えんよに封じてやったんだわ』

彼は人間の姿をしているが、紛れも無く龍神なのだ。

『まぁ、海外でも問題になってやがるな、まぁ、余所様の神なんか興味無いけん、どないも知らん顔やけどな』

言いながらヴィヴィアンウエストウッドの携帯灰皿にブラックデビルの吸い殻を捩じ込み『で?』と顎を上げるシンイチ。

『飛び込みねぇのかよ?』

『ま、待って、まだ心の準備が…』

『日が暮れちまうぞ?』

ニシシッと八重歯を見せながら『覗いて見ろ』と僕の背中を押す。

『わ、止めて下さいよ』

激しい潮騒がする。
岸壁をガリガリ波が削りながら白い気泡を巻き上げている。
僕は恐怖し、畏怖嫌煙した。
後ずさればシンイチのスニーカーにコツンとサンダルの踵が当たる。

『早く飛び降りねぇか』

シンイチが僕の二の腕を掴みズルズルと断崖に引き摺って行く。

『早く』

『わ、た、高い…無理です』

『なんだよ腰抜けだなぁ、俺がせっかく教えてやったんだ、早く飛び降りろ?』

『わぁッ!』

途端突き飛ばされ僕は断崖絶壁から落下した。
身を投げ出され手足で空中を掻きながら僕は猛スピードで落下して行く。

『わ…』

途端腕を掴まれる感触がして瞑っていた目蓋を開ければ花子が心配そうに僕を見詰めていた。
どうやら無事に帰還したらしい。

『大丈夫?何が見えたの?ガタガタ震えながら唸ってたよ?』

『…も、戻れたの?』

僕は辺りを見渡した。
蝉が鳴き喚くあの例の公園だった。
人の気配は皆無だ。
冷や汗ダラダラの中、思わず花子を抱き締めた。

『あ…ハ、ハルくん?』

『怖かったよ花子ぉ』

僕は見て来た別の時空間での話を聞かせた。
花子ハかなり驚いていた。

『まさか次はお姉ちゃんに顔が無いなんて…』

『僕もかなり驚いたよ、それに明さんも橘さんも既に亡くなって居無くなったしな』
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