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人魚島
第9章 枝分かれの現実
『魚人、春樹、話があるんや、花子も来い、2階の奥座敷借りるぞ』

『なんの話や?僕アルバイトでクタクタなんだけど?』

ウオトがポキッと頸椎を鳴らす。
快く思わなかったのかシンイチが『構わねぇだろッ!』と強引にウオトの二の腕を掴んだ。

『解ったよ、付き合うけん、座敷用意してくるけん』

ノロノロと立ち上がり鉄火丼を卓袱台に置くウオトに『チッ』と舌打ちすりシンイチ。
本当に不仲らしい。

『用意出来たけん、行くよ』

明さんに会釈し、2階に上がる。
宴会中なのか、何やら騒がしい。
その廊下の突き当たりを左に曲がり奥座敷に入り、蛍光灯を付けるウオト。
窓を開ければ潮風が優しく頬を撫でた。
座布団に座り開口一番シンイチが『魚人、また数百年振りに新しく玩具を手に入れたんだな』とブラックデビルを灰皿に捩じ込んだ。

『玩具?ちゃう、天使や』

『戦が終結してからは互いに暇だったからな』

『戦は嫌いだよ』

『あれは凄まじかったな、俺も参戦して、お前と敵対しとったけんな』

ニヤニヤしながらシンイチが再びまたブラックデビルの先端に火を近付け、思い切り吸い込む。
途端、辺りは白けブラックデビル特有のバニラの香りが立ち込めた。

『はぁ、まぁ、戦の話や無いんやろ?あらかた僕の天使が一興で欲しくなったんやろ?』

『まぁ、そないな感じや』

僕と花子はウオトとシンイチのやり取りをただボンヤリ眺めている他無かった。

『やら無いよ』

ウオトがピシャリと言い放つ。

『奉納されたのは僕や』

『ならおこぼれ頂戴や』

ウオト、シンイチがバチバチ睨み合う。
普段フンワリ穏やかなウオトからは想像出来無い凄みのある睨みだった。

『俺は島民に忌み嫌われとるけん、滅多やたらに奉納されん、お陰様で神の力も弱まってる…海に帰る方法すらもボンヤリ忘れてきとる』

『はぁ、まぁ、なら陸地で生活したらええねやわ』

『アホか、海が荒れちまうじゃねぇか』

『代わりに僕が見ておくよ、これでも一応は一介の神だからね』

『アホか、瀬戸内の人魚島界隈の海を守ってるのは、この俺や、お前はそこらを彷徨く漁師の守り神やろ?全く仕事内容が違うやろ?』

『せやけど、長い長い嫌な戦が終結して、やっと穏やかな暮らしを手に入れたんだ、邪魔せんでや?』

ウオトが力無く笑う。

『お前も退屈しのぎに力分け与えたんやろ?』
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