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人魚島
第10章 東京編
葉山は余程明治大学に行きたいらしい。

『右翼思考なんか止めとけよ、平和に行こうぜ?』

『あん?外国人なんかにこの大和大国乗っ取られて堪るか』

葉山はいつも酒が入ると日本の事を"大和大国"と呼ぶ習性があった。
彼の右翼思考はどうやら彼の祖父から引き継いだ物らしい。
彼の祖父は右翼団体の事務員会員で週末には黒塗りしたハイラックスサーフに乗り、日の丸の旗を振りながら『アジアは~』と拡声器で見上げる人々に語り掛けるのだとか。
僕は至って平和主義なんで右翼だとか左翼だとか良く理解してい無い。

『今こうしてる間にも怪しい連中が大和大国にスパイを放って2ちゃんねるやらを攻撃しに掛かるぞ、GoogleのWikipediaの日本の歴史だって捏造されて改竄される恐れがある、ほら、見て見ろよ?』

『何?』

葉山がコソコソ声になりながら『あのラーメン作ってるオッサンだって…』とニヤリとした。

『アジアのスパイかも知れねぇ』

『アジアって?』

『あん?だからアジアだよ』

笑いながら『冗談だよ』と生ビールを呷る葉山。
やれやれと肩を竦める僕。
しばらく雪は止みそうに無い。

『おぉ、寒いなぁ、そろそろ帰るか』

葉山がガタガタ震えながら立ち上がる。
時刻は9時前だ。
スマートホンで時間を確認する。
ミケさんから"また穴埋めしろよ?"とLINEが来ていたが、無視して葉山と歩いた。

『おい、見ろよ?HONDAのシャドウだ』

コンビニセブンイレブンの軒先にエンジンが掛かったままのHONDAシャドウ1100CCらしき黒い車体が停まっていた。
近付く僕等。
途端俄然葉山の目がキラキラする。

『カッコいいよなぁ、オートマチック車両のマジェスティも捨て難いけどよ、HONDAのシャドウも本物はやっぱりカッコいいなぁ』

堂々と股がる葉山に『おい、見付かるぞ』と笑う僕。
酒のせいだ。
酒が僕等の気分をでかくしていた。

『今なら盗める』

『馬鹿言うなよ、帰ろうぜ?』

『アハハッ!後ろ乗れよ、後で返せば問題ねぇだろ?』

そんな他愛無い誘惑に負ける僕。
ワクワクしながら後部シートに股がった。
途端ブゥンッ!と唸りながら疾走するシャドウ。

『なぁ、篠山ぁッ!気持ち良いだろッ!』

『ひゃっほぅ~ッ!』

僕は奇声を上げながら立ち上がり、全身に風を受け手をかざした。
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