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人魚島
第10章 東京編
そのままハザードをたく客待ちのタクシーの隙間をギリギリで滑り抜け隅田川に向かう。
思わず鼻がもげそうな位寒い。
僕は葉山にしがみ付きながら花子を想った。
隅田川の中腹荒川と隣接した場所にシャドウを停める。
河川敷で立ち小便をし『女の子ナンパしようか』と息巻く葉山を宥める。

『で、さっきの話の続きだけど』

葉山がラークを吸いながら河川敷に胡座をかいた。
僕は変化球で隅田川に石を投げる。

『お前は未来人か過去人なのか?』

『過去から来たよ、信じ無くて良いよ』

石を5~6個投げ込み、河川敷に大の字になる。
雪は止み、黒々とした深く分厚い雲が空を覆っていた。

『いや、昔から面白れぇ奴だと思ってたけど、まさか過去から来たとはな、何しに来たんだよ?』

『あん?タイムリープしたらたまたまこの時代に来たんだよ』

『居心地はどうだよ?』

『最悪だね』

ケントを燻らせながら天を仰ぐ僕に葉山は笑って『なぁ、未来教えてくれよ?俺は可愛い嫁さん貰ってるのか?』とラークの煙を吐き出す。
懐にウイスキーがあった事を思い出した僕は葉山に『まぁ、呑めば?』とウイスキーのボトルを手渡した。

『はぁ、ウイスキーね、俺は苦手なんだ、なんか買って来るよ、なんかいる?』

『ケント、ねぇや』

『解った、金出せよ』

僕はヴィヴィアンウエストウッドの長財布から420円取り出した。

『ははん、どうやらお前本当に冗談が上手くなったんだな?』

ニヤリとしながら葉山が420円を弄ぶ。
訳が解らず小首を傾げれば葉山が『2019年今はケント430円だぞ?大丈夫かよ、マジで?』と真顔になる。
嗚呼…僕は項垂れた。
課税だ。
420円から430円にケントは値上がったのだ。
『じゃあ行ってくらぁ』とシャドウに股がり走り去って行く葉山を見送りながら僕は目蓋を閉じた。
学校にも仕事にもろくに行かず、花子のヒモ状態。
マリファナや覚醒剤まみれで、信頼していたミケさんとはセックスフレンドの関係。
そして敦さんとは喧嘩で仲違い。
最悪の枝分かれした現実だ。
明日辺りに広島県に向かって人魚島の魚鳴き岬から飛び降りて身投げしなければ。
こんな時空間には用は無い。
ケントの煙を吐き出した時だ。
ブゥンッ!とシャドウのエンジン音がし、葉山にしては早いなと起き上がる。

『てめぇか?』

見知らぬ男がやって来た。
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