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人魚島
第10章 東京編
『なんだ、自力で返済出来そう?なんなら手伝おうか?』

イシコリドメがフンワリ微笑む。

『いえ、たかだか100万程度ですから、次の給料日にはチャラです。心配掛けてすみません』

100万程度、僕は嘘を付いた。

『そっか、自分で返すんだ、偉いなぁ』

否、その大半は花子が売春し日銭を稼いでチマチマコツコツ返済していたやつだ。
しかし、今日からはこの僕が返済する。
いや、するんだ、してやる。
花子を幸せにしてやるんだ。

『で?頼みって他にある訳?あ、オジサーン、生ビールお代わりで、後鍋火力上げて?』

無邪気にキムチ鍋をつつく幸せそうなイシコリドメの手をギュッと握り締め僕は『はいよ』とやって来た従業員が生ビールのお代わりを置いて鍋の火力を上げたのを見計らってからソッとイシコリドメの耳元に唇を寄せた。

『明日31日年末最後だよ?ブラックパールとペルフェクション下ろしてよ』

ゆっくり唇を離せばイシコリドメは目をウルウル潤ませ『あ…』と僕の吐息に感じていた。
イシコリドメは感じやすい体質だ。
耳元で囁いてやれば、すかさずCHANELのパンツを濡らしてしまう。

『あ…ん…良い…よ、そ、その代わり…』

『ん?』

僕はニヤニヤしながらイシコリドメの手のひら、生命線をツツツーと撫でる。
イシコリドメがビクンとしながら涙目に訴えて来る。

『春、今夜は帰さないから』

イシコリドメがウットリ呟いた。

『そのつもりだよ石五里さん』

嗚呼、参ったな、花子が心配だ。
鮭粥食べれたかな?
後で電話してみよう。

『彼女容態はどうなの?』

イシコリドメはようやく落ち着いた様だ。

『インフルエンザみたいです』

『そっかぁ、妊娠初期にインフルエンザかぁ、妊娠して免疫力落ちてたんだねぇ、電話して来て良いよ?』

『え?』

『妬けるけど、仕方無いじゃ無い』

僕は促され、店の軒先、エレベーターホールで花子に電話する。
5コール目に『ハルくん…』と弱々しい蚊の鳴くような声で名前を呼ばれた。

『何処に居るの?』

『六本木だよ』

『誰と居るの?』

『お客さんだよ』

『ハルくん、辛いよ』

『朝には帰るから』

『セックスするの?』

『うん、ごめん』

『解ってるよ、ホストなんだもんね』

『穴埋めするよ、お土産何かいる?』

『婚約指輪欲しいかな』

『解ったよ』
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