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人魚島
第10章 東京編
婚約指輪か、女の子なら憧れるよな。
そうだよな、TIFFANY辺りで見てやるか。

『構わ無いよ、6号サイズだったよね?』

『うん』

『始発で帰るから、待ってて?』

『うん』

スマートホンをFerragamoのスーツの胸ポケットにしまう。
カウンター席に戻りチャンヂャを肴にし生ビールを呑む。

『煙草止めたんだ?』

目敏くイシコリドメが笑いながら指摘する。

『妊婦に良く無いし、貯金しなきゃ』

『偉いなぁ、ほら、食べなさいよ』

『すみません』

僕は花子を心配しながらイシコリドメの左手首に光るバングルをボンヤリ眺めていた。
あらかた鍋を片付けて六本木ヒルズのTIFFANYでイシコリドメに見て貰いながら18万の婚約指輪を買った。
安物だったが仕方が無い。
『女の子は値段じゃ無いよ』とイシコリドメも笑う。
そしてCartierで腕時計タンクアングレース74万と130万相当のスーツ一式をイシコリドメから贈られた。
『Ferragamoのスーツ1着じゃ難儀でしょ?安物でごめんね』と爽やかに笑うイシコリドメ。
そして二軒目、ジャズバーに赴き、何故だかメニュー一覧表にあったジンカボスを呑んだ。
こんな高そうな店なのに、珍しい。
カウンターからシェイカーの音が響く。
顔を上げれば『やあ』とバーテンダー姿のウオトがカウンター内に立っていた。

『久しぶり』

ウオトが笑う。

『何?知り合い?』

イシコリドメがジンカボスを傾けながら目を丸くする。

『春樹くんとは昔からの親友ってとこかな』

ウオトがシェイカーをカウンターに置いてニッコリする。
この時空間ではウオトは六本木ヒルズのバーテンダーらしい。
似合っていた。

『バーテンダーさん、ジンカボスお代わり』

『やぁ、ハハハ…強いんですね』

そりゃイシコリドメは女神様だ、強いに決まっている。

『何してるの?デート?』

『はい』

『ふぅん』

『あ、ちょっと化粧直しして来るわ』

イシコリドメが席を立つのを確認してからウオトがニコニコして『まさか春樹を殺すなんてな』と呟いた。
28日僕は春樹をこの手で殺めた。

『どう?腹の傷は?』

『それがうんともすんとも痛く無いんです』

『そりゃ君は天使やからな』

『え?』

『死ににくい身体にもなっとる』

『………』

『まさか女神とデートとはお見逸れしたよ』
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