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人魚島
第10章 東京編
『な、なんですか?』 

やはり億単位なんか無理か、そうだよな。

『ブラックパール出した時に随分舐められた物ね、それともまだまだ駆け出しのヒヨッコホストだからアルコールの知識無いのかしらって思ったのよ、まさかヘンリーコニャックグランデシャンパン言い出す度胸があるなんて…益々気に入ったわ』

ニヤリとしながらロメオイジュリエッタを燻らせて『良いわよ、ちょっとサルタヒコ』アマテラスがパチンと指を鳴らせばサルタヒコと呼ばれたボディーガードの男が一人駆け付けた。

『イエス、ミス』

『ジュラルミンケース持って来なさい』

何が始まるのだろう?と小首を傾げる僕の元に馬鹿でかいキャリーバックの様な滑車の付いたジュラルミンケースが運ばれた。
何やらロックされているらしい。
『これ、中に1億入ってるわ、好きに使いなさい、月読ッ!月読ッ!来なさいッ!』ロックを外しながらアマテラスが声を荒げる。
中身に思わず腰を抜かす僕。
ゆ、諭吉がピン札で何ブロックも入っていたのだ。
1ブロック1千万だ。
それが10つ近く並んでいる。

『姉さん何?フカヒレならもうねぇよ』

ノロノロとやって来たシンイチがジュラルミンケースを一瞥しながら『やっとヘンリーコニャックグランデシャンパン下ろしたのか?』と目を丸くする。
僕の膝はガクガク震えていた。
当たり前だ、1億だなんて生まれて初めて見たからだ。
高級な家が建ってしまう。
僕はガタガタ震えながらアマテラスを見詰める。
アマテラスはニヤリと笑いながら『呑むわよ』とジュラルミンケースを閉じてジュラルミンケースごとシンイチに渡して寄越した。
ヘンリー社が誇る最上位のシャンパンだ。
あのヘンリー社のだ。
僕の震えは治まら無かった。
そしてボーイ二人がヘンリーコニャックグランデシャンパンを運んで来た。
宝箱の様なシルバーのボックス、海の気泡を思わせる飾りがふんだんに装飾されている。

『これには鍵が掛かってるんだ』

シンイチがしゃがみこみ、僕に専用の鍵を手渡した。
ズッシリ重く真鍮で出来ていた。

『アマテラスさん開けて下さいよ』

ワナワナ震えながら後退りする僕にアマテラスが『良い記念じゃ無い、あなたが開けなさい』とフンワリ微笑むだけだ。
僕は意を決して真鍮の鍵をシルバーボックスの鍵穴に近付けた。
緊張からか汗がネットリ手のひらの中に溢れ流れていた。
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