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人魚島
第10章 東京編
シルバーボックスの中にはヘンリーコニャックグランデシャンパンが入っているのだ。
僕は震え鍵穴に差した鍵がカチャカチャ揺れた。
そして静かに右に回す僕。
その横ではニヤニヤしながらシンイチがデジタルカメラ片手に、その様子を撮影している。

『かくてもあられけるよ、あはれに見る程に…』

シンイチが古文で呟いた。
徒然草子神無月のころを思い出させる。
カチャッ…どうやらシルバーボックスの鍵が開いたようだ。
すかさずボーイ二人がゆっくりシルバーボックスを開いて行く。
ノクターンが流れる中、きらびやかなヘンリーコニャックグランデシャンパンが露になる。
海の気泡を連想させる装飾に包まれバカラのクリスタルグラスにが4つ付属している。
僕は『ああ…』と項垂れその場にへたりこんだ。
ヘンリーコニャックグランデシャンパン…1億なのだ。
ロメオイジュリエッタを燻らせながらアマテラスが『なかなか良い光景でしょ?』と美しく形の良い唇を上弦の月の形にした。
ボーイ二人がゆっくりバカラのシャンパングラスを取り出しガラステーブルにセットする。
ボーイも流石に緊張しているのか額に僅かに汗を光らせていた。
ゆっくり開封される。
シュポンッと軽快にコルクが開けられ、そしてゆっくりトクトクトクッとバカラのシャンパングラスに注がれる。

『待ってね、ほら、春』

アマテラスが紫色の小さな巾着を取り出した。
5㎝程度のそれは中に何かが入っているらしく僅かに膨らんでいた。

『真珠とダイヤモンドだよ』

アマテラスが笑いながら巾着から真珠とダイヤモンドを5~6粒とりだした。
3㎜位の小さなそれをシャンパングラスに入れる。
カランッと乾いた音がし、シャンパングラスの底に落下する。
気泡を吐き出しながらシュワシュワと真珠とダイヤモンドがキラキラ輝いている。

『これは?』

『飲むのよ、ヘンリーコニャックグランデシャンパンと一緒にね』

真珠とダイヤモンドをヘンリーコニャックグランデシャンパンと一緒に飲み込むッ?
馬鹿馬鹿しいッ!

『ダイヤモンドはロシアで、真珠は瀬戸内海で採れた物よ』

瀬戸内海…なんだか懐かしい。
潮騒が聞こえた気がした。

『姉さん、俺には?』

『あるわよ、呑みなさいよ』

『ヘヘッ…頂くよ』

シンイチがヘンリーコニャックグランデシャンパンをバカラのシャンパングラスに注いだ。
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