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人魚島
第10章 東京編
『まぁ、そう言う事やから、行くぞ、横浜市刑務所』

スープラを飛ばし高速から降りる。
日差しは弱く雪がちらついていた。
左右に規則正しく揺れるワイパーを睨み付けながら『ちょっと前祝いに肉マンとシナチクの酒呑むか』とフッと笑い横浜中華街のパーキングエリアにスープラを停めるシンイチ。
サングラスを外し颯爽と中華街の肉マン屋に入り『オバチャン、肉マン二つ、焼酎二つ』と注文し、カウンターにもたれ掛かるシンイチ。

『まぁ、食えよ、はッ熱々だな』

シンイチが出来立ての肉マンを手中で割れば肉汁が溢れた。

『うめぇなぁ、昔は三人仲良かった時代に良く食いに来たっけなぁ』

『三人?』

『ああ、イナダヒメと弟の三人だよ。勿論当然当時イナダヒメは俺の女やった』

焼酎を呷りながらシンイチは続けた。

『はッ懐かしいな、俺が18~9の頃だからもう7年前か、やべぇ、涙出て来るわ』

シンイチが『ハハハ…』と笑いながら手のひらで涙を拭った。

『大丈夫ですか?』

『ああ、平気だ、すまねぇな、春樹』

珍しく僕を名前で呼ぶシンイチ。
ホロ酔いになった所でタクシーに乗り換え横浜市刑務所を目指す。
やはり刑務官が居る場所だ、飲酒運転で検挙されるリスクを下げたのだろう。
ガードの刑務官が立つ中、受付で入念なボディチェックをされた。
『先程迄暴れてました』刑務官が先頭に歩く中、僕等は三人は閉鎖病棟にやって来た。
鉄製の扉で封鎖された個室の病棟、アクリルガラスで出来た小さな窓が鉄製扉に鎮座している。
それを覗き込むシンイチ。

『あれがイナダヒメだ』

促されアクリルガラスを覗き込む僕。

『綺麗やろ?』

何やらブツブツ独り言を呟きながら車椅子で壁に向かい合い背中を見せるイナダヒメ。
長い髪の毛、痩せ細った身体、繋がれた排尿用のチューブ。
恐らく尿道に直接繋がれているのか、車椅子の背後の大きなパックには黄色い生々しい尿が溜まっていた。

『入るぞイナダヒメ』

中に入る僕とシンイチ。
『手短にお願いします』と刑務官が告げて鉄製扉を閉めてガチャンとやり通路に消えて遠ざかって行った。

『よう、叔母さん、元気してたか?』

シンイチがニカッとしながら車椅子のイナダヒメに近付く。
白い壁、6畳程度の独房にイナダヒメは居た。

『あ…あ…誰?』

イナダヒメがゆっくり顔を上げる。
美人だった。
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