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人魚島
第10章 東京編
鹿児島豚、バクーシャー種が大小様々な形でヒグヒグ言っている。

『こいつ等は畜生界から引き上げた人間の成れの果てだよ、神様の供物に手を出した馬鹿たれだ。よく寺や神社の供物あるだろ?饅頭や酒だよ、それを口にしたら最後、地獄に落ちる。行き先は畜生界だよ』

アペフチが杖の先で雄豚をつついた。

『こいつなんかは食い付き良いよ?馬鹿みたいに食う、前世はきっと大食いだったんだよ』

汚らわしい物を見る様な目付きでアペフチが雄豚を杖で叩いた。
花子がビクッとしながら僕の背後に隠れる。

『じゃあいっちょやるか』

ニヤニヤしながらシンイチがビニール袋を開き逆さまにし、養豚場に中身をばら撒いた。
海老チリみたいな肉片が足元に転がる。
最初豚達はアルカリの臭いに警戒していたがアペフチが『良い子だから、お食べ?』に反応し、ギザギザの鋭利な歯で海老チリを食べ始めた。
身長170㎝、体重60㎏の敦さんが食われて行く。
シンイチとアペフチはニヤニヤしながらその光景を眺めていたが、僕と花子は震え上がり肩を寄せ合い事の成り行きを見守った。

『アイカブルグ…』

不意にアペフチが呟いた。

『アシトマップ…』
 
アイヌ語だ。

『アチカ…』

『アトゥサアナクネアノカイアフンチャロアペウチ…アルカアルパ』

『婆さん、何言ってるか解んねぇよ』

『祈りだよ、アイヌの歌だ。イオクンナカ…』

『いらねぇよ、んなままごとみてぇなやつ』

シンイチがブラックデビルです燻らせながらニヤニヤする。

『ほら、オト迄丸飲みだよ、うちのバクーシャー達は可愛いねぇ』

『オトってなんだよ?』

『髪の毛、だよ』

アペフチがニヤリとしながら豚達を杖で叩く。

『もっと食いなッ!たわけ者がッ!地獄から救い出したのは私だよッ!』

『ハハハ…婆さん元気やな』

シンイチがビニール袋を更に逆さまにする。
組織液やリンパ液がビニール袋から溢れ出す。
豚達はヒグヒグ言いながら敦さんを食して行く。
僕と花子は震えお互いに手を握り合った。

『ラストだな、なかなか食い付き良いじゃねぇか、期待以上だよ婆さん…婆さん?』

見ればアペフチの姿が若い女性に変わっていた。

『もう11時だね、これが私の昼の姿になるよ』

立派な注連縄の様な三つ編み頭にアイヌ民族衣装アットゥシを着た25歳位の若い女神様が微笑んだ。
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