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第10章 東京編

『ミトコンドリアイブってのは人類の進化に関する学説において、現生人類の最も近い共通女系祖先the matrilineal most recent common ancestorに対し名付けられた愛称や。約１６±４万年前にアフリカに生存していたと推定されとる、アフリカ単一起源説を支持する有力な証拠の一つや。まぁ、しばしば誤解を受けるが、彼女は『同世代で唯一、現生人類に対し子孫を残すことができた女性』では無いけんな。母方以外の系図を辿れば、彼女以外の同世代の女性に行き着くことも可能や。人類の出アフリカの時期を求める手掛かりの内、年代特定が比較的容易なサンプルの一つであると言う以外には、彼女は人類史に特別な意味や興味を占める人物ではあらんけんな』

『つまりはミトコンドリアイブの母親はまだ動物だった訳？四つん這いだったの？』

『極めてホモサピエンスに近い何かやな』

『そもそもミトコンドリアって何？どうしてヒト細胞なのに別にＤＮＡがあるの？別の生き物なの？』

『なかなか面白い質問やな』

禁煙パイポをガリガリしながらシンイチがニヤリとした。

『ミトコンドリアはミトコンドリアＤＮＡが持っている塩基配列の数は約１６５００対や。アメリカのアラン・ウイルソンを中心とする研究者は１００万年あたり約２％の割合で突然変異が起こっとると推定した。１９８７年当時、世界各地の１４７人を無作為抽出して、そのミトコンドリアＤＮＡの変異の内容と割合に従い系統樹を作成し発表したんや、ミトコンドリアは簡単に言えば卵子や精子迄に寄生する寄生細胞やと思えば良いけんな』

『寄生細胞？』

『人間とは別の遺伝子を持つ小さな動物や、ある興味深い一説では人間様を乗り物にして来るべく時迄寄生しとるんちゃうか言われとる』

『来るべく時って？』

『せやな、例えば人間社会が弱まったり、核戦争が起こった後、人類に変わって支配する時迄、かな？』

冗談じゃ無いッ！
薄ら気味悪いッ！

『不気味だな』

『ああ、気味悪いよ』

『つまり日本人はなんなのさ？』

『あん？だからミトコンドリアイブの１３人の娘の内の７人が日本人の始祖だ。案外日本人を始祖に持つ民族は多いんだぜ？』

『へぇ、そうなんだ、面白いね』

『太陽信仰について教えてやるよ』

『太陽信仰？』

『あん？太陽を馬鹿みてぇに崇めるやつだよ』