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人魚島
第10章 東京編
『え?彼女HIVなの?』

『うん、また来週結果聞くけどね』

『春は感染して無いの?』

『多分僕はして無いよ』

『そうなんだ…』

場所は六本木、相変わらずウオトが働くジャズバーだ。
ウオトが眉ねを寄せている。
ウオトにも酷な話だ。

『彼女はまだ知ら無いの?』

イシコリドメがブランデーの入ったたグラスを傾けながら目を丸くした。

『うん、まだ話せ無いよ。花子はただでさえ妊娠11週目に喜んでるんだからな』

『そっか』

悲しそうに眉ねを寄せるイシコリドメ。

『14週目から薬物治療なんだけど、話せそうに無いよ』

『無理に話す必要無いよ?14週目になれば自ずと解る事なんでしょ?』

『うん』

イシコリドメが『今日はとことん呑もう?付き合うよ?』とフンワリ微笑む。

『悪いね』

僕は『ハハハ…』と空元気だ。
イシコリドメはドラゴンゴッドでブラックパールを下ろしてくれた。
僕は渇きを潤す様にブラックパールを呑んだ。
『流石に帰るよ、またLINEして?』と10時過ぎ疲れたのかイシコリドメが帰宅し、僕の元に入れ替わる様にアマテラスがやって来た。
黒のパンツスーツで眼鏡は無く髪の毛をポニーテールにし、ロメオイジュリエッタを咥えながら『とりあえずロマネ』とVIPルームにドカッと座る。

『聞いたわよ、春』

『はい』

開口一番アマテラスが『気の毒な話ね』とロメオイジュリエッタを灰皿にトントンする。

『元の時空間には戻ら無いの?』

『まさかHIVの花子置いて元の時空間におめおめ帰れませんよ』

僕はロマネコンティをグラスに注ぎアマテラスに手渡す。
アマテラスはそれを呷りながら『そう』と悲しげだ。

『子供出来たんでしょ?』

『はい、11週目です』

『生むの?』

『それは…僕は望んでますが、花子次第です』

『多分生むわよ、彼女』

アマテラスがロマネコンティを煽りながらニッコリする。

『安産の神、紹介しようか?』

『安産の神様ですか?』

『うん、知り合いに沢山居るよ』

『お願いします』

とにかく何かすがりたかった。
アマテラスが『今夜は付き合って貰うからね』とアフターをせがむ。
仕方無くボディーガードが運転するロールスロイスに乗り込む。
アマテラスが指をパチンと弾けばすかさずボディーガードが『イエス、ミス』とロメオイジュリエッタを手渡す。
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