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いつくしみ深き
第1章 いつくしみ深き
 二人が着替え終えたタイミングで病室の扉がノックされ、看護師の長谷が顔を覗かせた。本番のメイクは病棟の看護師の中で一番のメイク上手、長谷に頼んでいたのだ。長谷のメイクの手際のよさに、響が感嘆の声を上げる。

「うーん、さすが。上手いなー。そうだ。いっそのことエンジェルメイクも長谷さんで予約しておこうかな」
「うふふ、メイクの予約は現在受け付けておりませーん」
「残念」

 薄化粧を施された祐希と自らもバッチリメイクの長谷は、顔を見合せ笑い合う。

 響と長谷は呑気に笑っているが、祐希には笑えなかった。「エンジェルメイク」とは、死後に看護師などが行うメイクのことだ。確実に迫っている死をネタに笑う二人を、祐希はただ見つめていた。

 長谷は「じゃあ、また会場でね」と言い残し、メイク道具を抱えて部屋を慌ただしく出ていった。看護師だから忙しいのだろうと単純に祐希は思っていたが、戻ったナースセンターで、長谷がメイクがすべて溶けるほど号泣していたと、後で他の看護師から聞いた。気丈に振る舞ってはいたが、間近に迫る患者の死が辛くないわけがない。
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