この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
浦島と亀
第3章 本当の浦島
バシャバシャという足音が遠ざかる。
あたしは浦島に背を向けて着物の乱れを直した。
「あの……ありがとう」
口をきくのは初めてだったので、ひどく緊張する。
「いや」
浦島の低い声が、思いがけず近いところから聞こえ、あたしの心臓は早鐘のように鳴った。
ちら、と盗み見ると、浦島はあたしの髪に触れようとしている。
「見事な髪だな」
ほどけて背中に流れた髪をひとすじ、浦島は指ですくって言った。
あの浦島が触れている――あたしは息をするのもやっとで、言葉を口にするどころじゃなかった。
「いつも見てただろう?」
浦島は指にからめたあたしの髪を口もとに寄せて匂いを嗅いだ。
「なぜ見ていた?」
あたしは胸が苦しくて堪らなくなった。
浦島は気付いていたのだ。
あたしが見つめていることに。
浦島を眺めるためだけに浜に通っていたことに。
この男が恥ずかしくて女と口がきけないなんて、誰が言ったのか。
浦島のたくましい腕が、あたしの腰にまわされる。
耳たぶに熱い息がかかった。
その瞬間、雷にうたれたように、痺れる感覚が下腹めがけて走った。
「あっ」
思わず出た声に恥じらっていると、浦島はあたしの頬に手をあててふり向かせた。
身悶えするほど恋い焦がれた浦島と、鼻先が触れんばかりの近さで見つめ合っているなんて……もう気が遠くなりそうだった。