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貴方だけに溺れたい
第7章 貴方に逢いたい
しかしそんなささやかな願いも、公園に到着した頃には落胆へと変わっていた。
日中に比べれば気温も下がり、車の数も増えている駐車場。
けれど奥に見える従業員専用のスペースに森川のSUVは無く、見馴れた2台の軽自動車の間には、その存在だけを抜き去ったような空間だけが見えた。
帰ってしまったのか、昨日と同じように出掛けたのかなんて分かるわけも無いけれど、今日も公園に居た事だけは確かだったようだ。
「こんなもんか……」
溜め息と一緒に漏れた言葉は、僅かながらに感じていた予感。
自分の願いなんてそう簡単に叶うわけが無いのに、ネガティブな予感が当たるのはいつもの事。
しかしそれなのに"もしかしたら"という曖昧な可能性に賭けてしまって、こうして自分の運の無さを実感するのだ。
だけど……今日は、これで良かったのかもしれない?
葵は駐車場内を半周してから、心の中の自分にそう言い聞かせた。
森川に会いたい。お礼を言いたい。
当然その気持ちに迷いは無かったが、それ以外の話題に対しての躊躇もあったのだ。
"失言は避けたい"
数時間前、休憩に入る前まで思っていた事だ。
その為に本の話題に触れ、名誉挽回とばかりに意気込んでもいた。
けれど休憩室に入り、昨夜の続きを読み始めたところで、その意気込みは瞬く間に動揺へと変わっていたのだ。
もしも今日、森川に会えていたとしても、葵は本の話題に触れる事は出来なかっただろう。
『実は私も、昨日から"フレイヤの化身"を読み始めたんです』
『そうなんだ。どこまで読んだ?』
『えーっとですね、呂季が薔薇園で、エッチしている貴子と和寿を目撃してしまったところまでです』
『…………』
自虐的にも"理路整然"と語る自分と、唖然とする森川の顔を想像して溜め息を吐いていた。
冗談で言ったとしても、間違いなく大失言だ……。