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貴方だけに溺れたい
第7章 貴方に逢いたい
馬鹿なのっ!?
静かに扉を閉めた後、怒りに任せて智之のベッドを蹴り跳ばしていた。
物に当たっても仕方がない事は分かっているし、智之の言動に対しても、今さら失望する事でも無い。
自分だってトウモロコシのお礼をド忘れしていたのだから、他人を非難出来るような立場でも無い事も分かっている。
けれど今日に限って、気持ちの奥にある何かが、ひどく荒れているように思えた。
森川に会えなかった事が原因だとも思えないし、思い当たる事があるとすれば、そろそろ排卵日である事くらいだろう。
ここ数年は妊活など無意味な事だと思っているけれど、毎月の生理が正確に来ているから、だいたいの目安は把握している。
そして情緒的に不安定になるのは、生理前と排卵日に当たる頃。ちょうど今の時期だ。
自分の中にある可能性がまた失われる事に虚しさを感じないわけでは無いが、苛立ちの原因が予想出来た為か、気持ちの切り替えは難しくも無かった。
葵はウォークインクローゼットに置いたバッグから本を取り出し、扉の向こう側から聞こえる音を意識しながらベッドに向かった。
時間的にはあと20分程で智之は風呂に入る為に寝室に入るだろう。
特に何かを話すわけでも無く下着とタオルを持って出て行くとは思うが、正直、自分が本を読んでいる姿を見られたくは無かった。
智之には読書の習慣も無いし、他人が読んでいる本に興味を示す事は無いけれど、機嫌取りの為に話題にする事はよくある事だ。
自分でも気にし過ぎかとも思うが、不愉快でしかない詮索は避けたい。
「ふぅ……」
昨夜と同じようにベッドに俯せになり、枕の上で栞を挟んだページを開いたところで、漸く安堵の息を吐いていた。
やっと続きが読める。
物語は自分の肉体の変化に苛まれる呂季が、薔薇園の中を歩きながら葛藤を繰り返していたシーン。
そして庭園の奥に設けられたガゼボ(洋風の東屋)の中で睦み合う双子の姿に、呂季は自分の中の二面性に気付いてしまうのだ。