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貴方だけに溺れたい
第7章  貴方に逢いたい

水筒に残っていたコーヒーを飲み干してから、漸く車のキーを回した。
エンジン音と共に昼間の熱を蓄えた生温い風がエアコンから吹き出し、葵は窓を開けながら外に向かって深呼吸をした。

帰ろう。

悔しさと羞恥心を汚い言葉で吐き出してはみたものの、気持ちが晴れるわけでは無いが、時間は刻一刻と過ぎているし、こんな状況だからこそ事故を起こさずに家に帰り、早く休みたい。
さすがにもう卑猥な妄想は起こさないけれど、ぼんやりした頭では無意識にも森川の事を考えてしまい、これもまた集中力の欠如の原因だったのだと思う。

幸いにも運転中はぼんやりとする事は無かった。
森林公園が近付くにつれ、昨日と同じような思いが頭を過っていたが、さすがにこんな時間まで園内に居るとは思えずに立ち寄る事はしなかった。

けれど、会いたいという気持ちは強くなっている。

今日は何をしていたかも分からない。
公園に来ていたのかも分からないし、実際のところ、普段はどんな生活をしているかも知らない。
今は時間が合えば公園で会い、近所に住んでもいるけれど、彼の本当の生活場所はこの町じゃ無いし、もしかしたら特別な人だっているのかもしれない?

勿論、自分だって結婚しているのだし、森川に恋人がいても関係の無い事ではあるけれど、考えれば考えるほど不安になったり疑問に思ってしまい、なかなか抜け出せなくなってしまうのだ……。



「……また?」

しかし家に帰り着けば、悔しさや羞恥心や、疑問や不安よりも、現実に対する脱力感が上回るのかもしれない……。

「なんであんなにバカなの?」

そう呟いたのは、車を降りて中庭へと回り、雨戸も閉めていなければカーテンすら閉じていない、煌々とした明かり漏れる窓を見た後だった。


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