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貴方だけに溺れたい
第7章  貴方に逢いたい

レースのカーテンの奥に智之の姿は無く、おそらくトイレかお風呂に入ってしまったのだろう。

くそっ!

心の中で悪態を吐きながら室外機の上にバッグを置くと、竹箒を取りに倉庫へと向かった。
ホルモンの関係や寝不足が原因だとしても、どうしてこんなにイライラする事ばかり重なるんだろう。
初めの原因は間違いなく自分の責任ではあるけれど、こんな風に毎日毎晩あらゆる事に置いて苛立ちが続くと、何かを破壊してやりたくなる。

たとえば竹箒で窓を叩き割るとか?
割れるわけが無いし出来るわけも無いけれど、何かに対して思い切り怒りをぶつけたい気持ちは確かにあった。

竹箒で窓に張り付いた虫を払い、反撃してきたカマキリとの攻防を終えてから家に入ると、案の定、浴室からはシャワーの音が聞こえ、葵は強く息を吐き出した。

今すぐ浴室を開け、素っ裸の智之に雨戸を閉めろと怒鳴りつけてやりたい。

しかしどんなに腸が煮えくり返っていても、怒りを吐き出した後の自己嫌悪を思うと、堪える方が賢明だとも思ってしまう。
ことさら智之に関しては、言っても仕方がないという諦めもあるが、余計に苛立ちが膨らむ可能性もある。
自分の精神的な負担を考えれば、何も言わない、会話をしないでいる事が一番無難なのではないかと思う。

「葵、帰ってたんだ。おかえり~」
「ただいま」

入浴を終えた智之の反応は、ある程度の予想はついていた。
外出着のままキッチンで夕食の準備をする葵に微笑みかけ、冷蔵庫から取り出した水を持ってリビングへと移動する途中で葵が閉めた窓に気付く。
そして再び戻って来て。

「雨戸閉めるの忘れてた!」
「うん」
「ごめんなさい……」
「いいえ」
「……怒ってる?」
「別に」

一通りの謝罪と、目を合わせない葵の反応に戸惑いながら姿を消す。
その際、流しに置いたままだったカレー皿に水が浸してある事にも気付いただろうが、触らぬ神に祟りなしというように退散した智之の態度には呆れるばかりだ。

"ごめんなさい"なんて言い方すら白々しい。



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