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貴方だけに溺れたい
第7章 貴方に逢いたい
そして今、窓際の壁には、葵の言った事を実行した智之の貼り紙が風に揺れている。
"雨戸を閉める!"
昨夜のうちに書いたのだろう。レポート用紙にボールペンで書いたそれは、どう見ても35歳の大人が書いた物とは思えないし、何故、こうした安直な行為で信用を得ようとするのか疑問に思う。
だけどこんな物を壁に貼り付けておいて、家探しに来た母姉はどう思うだろうか……なんて、"家探し"される事自体が不愉快なのに、相手の心証など考えてしまった自分に身震いした。
洗濯物を干し終えた後に時計を見ると、時刻は9時を回ろうとしていた。
やっぱりどんなに急いでも、公園に着くのは9時半か……。
そう思いつつも逸る気持ちは抑えられず、葵は急いで洗濯籠を片付けて部屋の戸締まりを確認すると、先日と同じように姿見の前に立ち、ウォーキング用のスポーツウェア姿の自分を確認してから家を出た。
早く会いたい。
会えるかどうかも分からないのに、思う事はそればかりだった。
しかし葵は、自分の願いはそう簡単には叶わない事も自覚していた。
いつもより少し早く公園に着いた葵は、いつもの場所に森川の車が無い事を確認して溜め息を吐いていた。
「やっぱりな……」
一昨日見た時と同じように、ぽっかりと空いた駐車スペースを見てそう呟いていたのは、やっぱり心の片隅にあったネガティブ思考のせいだろう。
どんなに会いたいと思っていても100%会えるとは思えないし、自分自身に運が無い事は分かっているから。
だけど、これが本来の生活なんだろう……。
車を停め、ヒップバッグを持って外に出ながら、ふとそんな風にも思った。
ほんの1週間前までは智之に対してストレスや不満を感じ、留守中の家探しに耐えたり、隔週で行われる飲み会を憂鬱に思い、恐怖を感じていた。
勿論、現在もそれは変わらないけれど、たった1つの変化、たった1人の存在が気持ちの中にあるだけで、自分の生き方が、今までとは少しだけ違う気がするのだ。