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貴方だけに溺れたい
第7章 貴方に逢いたい
ただ何が違うのかまでは分からない。
生活自体は相変わらずだし、智之や義理親、近所の人達にはイライラしている。
自分に対しても、どうしてこんな人生を選んでしまったんだろうとも思ってばかりだ。
しかし彼の事を考える時間は、どんなに恥ずかしい事や自己嫌悪に陥るような事でも、不思議と前向きに考えられるし、自分の弱さや短所を知られても悔しいとは思わない。
勿論それは、森川に対して尊敬や親愛のような感情があるからだとも思うけれど、彼に対するイメージというものが、自分にとって都合の良いものだという事は自覚している。
けれども、葵はそれでも構わないとも思っていた。
頭で考えれば、森川の生活や人生まで知る必要は無いし、そもそも自分はそんな立場には無い。
現実的に考えれば、森川はいつかはこの場所から居なくなるのだし、自分はまた独りでこの公園を歩き、同じ生活を繰り返すだけなのだから。
だけど……。
「そんなの、無理……」
不意に、そんな生活を続けながら年老いていく自分を想像してしまった。
これまでと同じように、田舎の片隅の小さな地域の中で、人目を気にしながら年を取り、智之の言動に不満を募らせながら生きていく自分だ。
そしてたまに公園に来ては、森川と過ごした時間を懐かしんだりするのだろう。
しかもこれから10年……20年……平均寿命までいくと50年?
子供はいなくて、いずれは自分の親だけでは無く舅姑の面倒を見て、自分の意志で建てたわけでも無い家のローンと税金の為にあくせく働いて生きるだけの人生だ。
しかしそんな事は今まで何度も考えていた事だけれど、今日はいつにも増して嫌悪感を帯びているような気がしていた。
そしてふと、結婚前の自分が……智之と出会う前の自分が現在の自分自身の生き方を知ったとしたら、間違い無く軽蔑し、乱暴な言葉で罵るだろうとも思った。
それでも反面では、その頃の自分に戻りたいと感じてもいる。
傍若無人で向こう見ず、だけど自由奔放に生きられる強さがあった。
もしも自分にその頃の勇気があったら、きっと今頃は、不安はあるけど後悔はしない、自由な人生を選んでいたと思う。
離婚だって、躊躇わずにしていたはずだ……。