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貴方だけに溺れたい
第7章 貴方に逢いたい
負のスパイラルコースに突入していた……。
園内からウォーキングコースを回り、以前と同じようにブナ林の中を1人で歩きながら、葵はずっと不毛な葛藤を続けていた事に気付いた。
その間に幾度となく茶色いツナギ姿の森川を探してはいたけれど、"居ない"という事実が余計に、ネガティブな思考を深めていたらしい。
気分を変えたい。
智之の発言を認めるのは癪に障るが、確かに排卵期から生理前にかけては気分の浮き沈みが激しいのは自覚している。
だからといって、気分転換になるような事も思い付かず、葵は暫くの間、東屋の椅子に座ってブナ林の中を眺めていたが、やがて立ち上がり駐車場へと向かった。
歩いていても、ぼんやりとしていても不愉快な事ばかり考えてしまう。
それなら何もしないでいるよりは、意味のある事をしていた方がまだマシだと思ったからだ。
けれども葵にとって、昨日と今日は完全に厄日だったらしい……。
「葵ちゃん、ちょっといい?」
「……はい」
それは帰宅後、軽い昼食を摂ってから裁縫を始めていた時だった。
裁断を終えたスカートは、次に表地と裏地の脇を別々にミシンで縫い始めていた。
スカートのミシンがけは全てが直線で、縫うのは簡単だが、シフォンとキュプラは両方とも生地が薄く、針を引っ掛けたり失敗をすれば簡単に生地を傷めてしまう。
その為、葵は負の感情を忘れて集中はしていたが、先日の森川からのアドバイスを実行する余裕も無くなっていたのだ。
そんな最中に部屋の扉がノックされれば、忘れていた苛立ちが振り返すのは当然だろう。
しかも溜め息の後に扉を開けると、そこには深刻そうな表情を浮かべた多代が立ち、その瞬間から嫌な予感はしていた。
「あのね、こんな事、私が言うような話じゃ無いと思うんだけど……」
「……はい……」
「葵ちゃんは……病院には行ったの?」
「……」
"病院"という言葉に一瞬だけ疑問を感じたが、どこか言い難そうな多代の様子に、それが何を示しているかは察する事が出来た。