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貴方だけに溺れたい
第7章 貴方に逢いたい
多代が部屋から出て行った後、葵は気が狂いそうなほどの苛立ちと不快感に襲われながら室内を歩き始めていた。
どうにも出来ないほどムカつく!
今すぐ何かを破壊したい!!
叫びたい!
罵倒してやりたい!!
しかしその全ての欲求は、堪え続けた反論と文句をブツブツと呟きながらリビングとキッチンの間を往復していても到底発散出来るものでは無かった。
当然、スカート作りを再開する気にもなれず、テーブルの上のミシンと縫いかけの生地を見ては、作業を中断させられたような気持ちが苛立ちに輪を掛けて膨れ上がる。
「くっそ……」
小声で吐き捨てたところで何も変わらないが、幾度となくミシンの前に立って気持ちを立て直そうとはしたけれど、結局はそれらを全て片付けてしまった。
『スカート作り、完成したら履いて来てよ』
こんな調子じゃ、いつになっても完成しない……。
スカート作りに期限は無いが、森川の言葉を励みにしているせいか、なかなか進まない作業がもどかしい。
けれど自分の癖はよく分かっているし、このまま無理やり作業を続けても捗るわけが無く、却って取り返しのつかないような失敗をしてしまう事は目に見えていた。
しかし裁縫を中断すれば他にする事も無く、引き続きイライラしながら部屋中を歩き回り、気が付けば何も入っていない冷蔵庫や戸棚を何度も開けている自分に嫌気がさした。
冷蔵庫にも戸棚にも、何も入って無いのは当たり前。
家探しに警戒して常備菜は置いていないのだし、戸棚にはお菓子なんて入っていない。
そんな事は既に分かっている事なのに、チョコレートの一欠片でも探し出そうとしている自分がいた。
無性に甘い物が食べたくなっていたのだ。
勿論、生理前にはいつも同じような衝動にかられるが、今回はきっとそれ以上。
ヌガーにキャラメルとナッツがぎっしり入ったチョコレートバーを5本くらい食べてしまいたい。
それがどんなに危険な事か、とてつもない後悔に繋がる事かは充分に分かってはいたが、葵の自制心はそれを覚悟と切り替えて、止まらぬ欲求を解放する事にした。