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貴方だけに溺れたい
第7章 貴方に逢いたい
人間を堕落させる物は、総じて手に入りやすい場所にあると思う。
「買い過ぎたかな……」
財布の入ったバッグとスマホだけを持ってコンビニへと向かった葵は、お目当てのチョコレートバーとアイスコーヒーを買ってから車へと戻り、そこで漸く、自分の行動の異常さに気付いた。
袋の中には5本のチョコレートバーと、無意識に手に取っていた細い棒の付いた飴が3本。
アイスコーヒーはブラックだから良いとしても、チョコレートバー1本のカロリーを見ると全部で約1300キロカロリーを摂取する事になる。
勿論すべてを一度に食べればカロリーオーバーどころか身体に悪影響を及ぼす事は分かっているけれど、店を出るまでは本気で食べ尽くしてやろうとしてたのだ。
我ながら恐ろしい。
しかし衝動買いした分を返品する為に店に戻る気にもなれず、それ以上に、早くこの場から離れたい一心で、葵は助手席のバッグの上に袋を置くと急いで車のキーを回した。
当然、このまま家に帰るつもりは無かった。
そのまま反対方向へと車を走らせ、向かった先は公園。
ただ森川が居るとは思ってはいない。否、思えるわけが無い。
今朝の段階で来ていないのは分かっていたし、午後の一番暑い時間帯での作業は植物への負担も大きい。
たとえ来ていたとしても外には居ないだろうし、会えるわけが無いのだ。
けれどそれ以上に、今の自分を森川に見られたくは無いと思う。
家に居た時のままのTシャツとジャージに、適当に束ねただけのボサボサの髪は勿論だけれど、どう見ても不機嫌で刺々しくなっている自分を知られたくは無い。
だから実際に、駐車場に森川の車が無かった事にはホッとしていた。
同時に、自分のネガティブな予想だけは当たるという事も実感したけれど、葵はそれ以上の事はあまり考えないようにして車から降りた。
考えれば余計に虚しくなるし、自分の選んだ生活をとことん後悔して悲しくなる。
情緒不安定になっているという事も自覚しているから、今は取り敢えず独りになって、静かな場所で食欲を満たす事だけを考えたい。