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貴方だけに溺れたい
第7章  貴方に逢いたい

ただチョコレートバーだけが原因だったというわけでは無い。
当時の葵は家から一番近いスーパーマーケットでパートをしていたし、労働時間は短いものの、通勤には片道20分以上は歩いていた。
家でもだらだらと過ごしていたわけで無いし、近く自動車の免許を取得する為に教習所へ行く予定もあったから、予習のつもりで勉強もしていたのだ。

しかし太り始めていたのは、結婚当初からだろう。
もともと痩せてはいたが胸が大きく、近所や職場で会う人達の露骨な視線に不快感を覚えていた葵は、敢えてその膨らみが目立たない服を選ぶようになっていたのだ。
その為に些細な変化には気付かなかった。
入浴の際に鏡で確認する事も無く、ましてや体重を測るほど几帳面な性格でも無いし、ヘルスメーターも持っていなかった。

それでも10kg太るまで気付かないわけが無い。
途中から気付いてはいたが、そんな自分に対して投げ遣りになっていたのだ。
太ったところで、細い人が標準サイズになっただけ。仕事にも影響は無いし、第一もう結婚してるんだから見た目なんて気にする必要は無い。
後から思えば、完全に無気力状態だったのだろう。
結婚して環境が変わり、生活も変わり、そのうえ智之の不妊症に対しても思い悩み、それを誰にも言う事が出来ずに溜め込んでいたのだ。

葵はもともと愚痴を言う性格でも無かった。
若い頃は言いたい事はすぐに口に出し、失言の多い小娘だったが、結婚するまでの環境にも恵まれていたし、抑圧される事も無かった。
けれど一人っ子で我が道を行くタイプでもけして我儘なわけでは無いし、誰に対しても敵意を抱く事も無かったし、警戒する事も無かった。
嫌いな相手や合わない人も当然いたが、そうした相手とは距離を置ける環境にいたのも幸運だった。

しかしそんな環境で生きてきた葵は、愚痴を言う事に慣れておらず、あらゆる不満を溜め込んできたのだ。
自由過ぎる性格で心配させてきた両親にも、これ以上は心配させたく無いと思って何も言わないし、自分の生活に忙しい友達にも"愚痴を言う為に"電話なんてしたくない。
そんな気遣いも、ストレスを溜める原因だったのだろう。

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