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貴方だけに溺れたい
第7章 貴方に逢いたい
『これはヤバい……』
ダイエットを始めたきっかけは、教習所に入る為に撮った証明写真だった。
写真は肩から上の顔写真ではあったが、葵はそこに写る自分の顔に愕然とした。
肉に埋もれた顎や円くぼやけた輪郭に、小さく腫れているような目。僅かに映った肩のラインも丸くふくよかで鎖骨も消失していたのだ。
これが私?
太った事は分かっていたけれど、ここまで酷いとは思っていなかった。
後から思えば、漸く貯金が貯まり、教習所に行くという目標が達成出来たから、自分に対する見方が変わっていたのだろう。
ほんの僅かではあるが、別の環境で目指すものがあれば、一時的にも前向きになれる。
しかし葵のダイエットは極端だった。
先ずはそれまで食べていたチョコレートバーを封印し、食事制限だけで体重を落としていった。
運動は頭に無かった。近所の目が鬱陶しくてウォーキングは出来なかったし、胸の揺れるジョギングなんて問題外。
家の中での運動も、途中で邪魔が入ったり干渉されたりする事が嫌で避けていた。
それでも着実に成果を得ていたのは、教習所での時間のおかげだろう。
講習そのものは予習していた甲斐もあり、難なく進んだし、実技は楽しかった。同じ年代の教習生と雑談を交わす一時も葵には新鮮だった。
そして無事に自動車免許を取得した頃には、葵の体重は6kg減っていた。
その頃になると、葵は再びアパレルの仕事に戻る事を考え始め、免許取得のお祝いに車を買ってくれるという実父のサプライズに歓喜した。
しかしダイエットも順調で、すべてが良い方向に向かっている気がしていたのは、昨年の暮れまでである。
その頃から始まった"町内会の集まり"という名目の"ただの飲み会"は、葵にとってはそれまで以上のストレスとなり、不快感や恐怖となり重くのし掛かってきたのだ。
そして当然、痩せた事にも後悔した。
もしも太ったままの自分だったら、胸の大きさも目立たなかったし、クズ男達の関心も惹かなかったかもしれない。
酔った男に後ろから羽交い締めにされ、両胸を鷲掴みにされて揉まれたあげく、笑い者にされるような屈辱すら受けなかったはずだ……たぶん。