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貴方だけに溺れたい
第7章 貴方に逢いたい
その間、他の男達はアキラの愚行を煽るように囃し立てていた。
向かい側に座っていた男はアキラに加勢するつもりだったのだろう。じたばたと動く葵の足首を掴み、自らの重さで抑えつけようとした。
止める者はいなかった。
彼らの馬鹿騒ぎに気付き、遠くから咎めるような声も聞こえはしたが、その声には呆れたような笑い声が含まれ、誰もがこの状況を面白がっているように思えた。
智之でさえ……彼は確かに同じ部屋にいて、この状況に気付いていたはずなのに、葵を助けようとはしなかった。勿論、何をしていたかなど知るよしも無いし、考える余裕すら無かった。
しかし後になって思えば、智之はアキラ達に逆らえず、見ない振り、気付かない振りをしていたのだろう。
実際にこの時の出来事を問い詰めた時、智之は『また、ふざけてるのかと思った』と答えたのだ。
"また"って何だ?
最終的に葵を助けてくれたのは、トイレから戻って来た健一郎だけだった。
『おい、何やってんだよ!』
怒気を含むその怒鳴り声が聞こえたと同時に、葵の足を押さえつけようとしていた男は自ら離れ、背中と胸を圧していたアキラの熱と感触が乱暴に引き剥がされた。
しかし解放された事は頭では分かっていたけれど、その時の葵は腰が抜けたような状態で立ち上がる事も出来ず、ただ震えながら床を這って彼らから離れる事しか出来なかった。
怖かった。
それ以上に悔しかった。
しかしあらゆる感情が憎悪となって、怒りに変わるまでの間、葵はただ自分の中の恐怖心を抑え、健一郎の後ろから事の成り行きを見ている事しか出来なかった。
引き摺り倒されたアキラは、それでもヘラヘラと下衆た笑いを浮かべながら目の前に立った健一郎を見上げていた。
狂人……それ以上に言い表せる言葉も無い。
そして囃し立てていた他の男達は健一郎の前では気まずそうに俯いてはいたが、誰一人として、葵に謝罪するような素振りは見せなかった。
そしてそれは、今も変わらない。