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貴方だけに溺れたい
第7章 貴方に逢いたい
鬱蒼とした雑木林の中に伸びた一本道は、緩やかなカーブを描きながら高台に続いていた。
凡そ100メートル。
予想よりも長い距離を時速10キロにも満たないスピードで進み、車一台分の細い道で対向車が来ない事を祈りながらも少し戸惑っていた。
森林公園なんて本当にあるの?
看板だけが残っていて、既に無くなってるかもしれない?
実際に公園があれば、今の時間なら散歩に訪れる人もいて、対向車だって通るはずなのに……。
対向車が来なかったのは、夕暮れ時でタイミングも良かったからだろう。
陽射しは西側に傾き、林の間を縫うように強い西陽が射し込んでいた。
やがて目的地に近付くにつれ木々は減り、アスファルトの敷地が見え始めた。
駐車場には車が5、6台停まり、そのうちの3台は従業員専用のスペースに停められていたが、その頃の葵には分かるはずもなく、ただ単純に人の気配がある事に安堵していた。
初めて見た森林公園は駐車場との境に低い石垣があるだけで、外側からは周囲を囲む森林と同化しているようにしか見えず、鉄製の門が無ければ途方にくれていたかもしれない。
入口から離れた場所に車を停めた葵は、先ずその膨大な緑の群れに圧倒されていた。
そしてエンジンを切れば人工的な音など一切聞こえない、本物の静寂に包まれたように思えた。
まるで異世界__と呼ぶには大袈裟かもしれないが、車を降りた葵は、まるで現実から引き離された場所に迷い混んだような錯覚を覚えた。
しかし同時に、わくわくするような高揚感も芽生えていた。
何がどうなってるの?
此処ってお城か要塞があった場所?それとも何かの基地?
夕方だしちょっと怖いな……でもあの門の先に何があるのかは確かめておきたい。
春物を取り入れた仕事用の服装では、まだ少し肌寒かったかもしれない。
けれども葵の歩調は入口に近付くごとに速まっていて、寒ささえ気にならなくなっていた。