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貴方だけに溺れたい
第7章  貴方に逢いたい

ブナ林を訪れたのは最後だった。
しかし現在のように林の中を歩く事は出来ず、葵は樹海のように広がるブナの群生を外側から眺めながら逡巡していた。
入れば迷ってしまうのではないかという不安もあった。
道があるわけでも無いし、すべてが同じ形をした木に見える。
そんなに奥に入らなければ迷う事は無いだろうけれど、ひとけの無いがらんとした静けさにも戸惑っていた。
穏やかな太陽の光に照らされたその場所は明るく穏やかな景色ではあるけれど、それだけに、どこか神聖な雰囲気を感じていたのだ。

しかし後になって思えば、単純に"出入口"や"道"が無かったから、躊躇っていたのだ。
入口があれば、出口がある。
道があれば、迷う事も無い。
現に東屋に続く細い道を見付けた時、葵は意を決して中へと入る事がいた。
"道"といっても、何人もの人が踏みしめた事で出来た小径だが、その道が無ければ、葵は林の中に入らずに立ち去っていたかもしれないし、行動力の無い自分に呆れていたのかもしれない。

僅か30センチ程の幅の草の生えていない小径は、林の奥深くにある東屋まで続いていた。
50メートルは歩くだろうか、木造の古い東屋は外側からは見えず、当然ながら其所から眺める景色にはもう林の外側は見られなかった。
屋根の下に入って眺める景色は、ブナの群生に囲まれた森の中ようだった。
人工的な音など聞こえない透き通った静寂。
広場で遊ぶ子供達の声のかわりに、風に揺れて擦れる葉の音や小鳥の囀りが聞こえてくる。

『凄い……』

見渡す限りのブナ林。
葵はその光景を眺めながら、そう呟いていた。
ただその一言には二つの意味が含まれていて、一つは目の前に広がる雄大な景色の事だが、もう一つは自分自身に対してでもある。

ブナ林に入る前の自分は、果てしなく広がるその光景に躊躇していたけれど、意を決して踏み込んだ事で素晴らしい景色を見る事が出来た。
勿論、"既に道が作られていた"から入る事が出来たのだけど、葵はそれでも満足していたのだ。

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