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貴方だけに溺れたい
第7章 貴方に逢いたい
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それでも現在の自分から見れば、羨ましい。
傍若無人なところは欠点ではあるけれど、自由を貫ける強さがあり、間違いだと思う事には妥協しない。
たぶん当時の自分なら、現在のような生活にしがみつく事は無いだろう。
たとえトラブルになろうとも、もっと分かりやすい方法で竹村やあの男達を拒絶していたはずだ。
智之に対してだって、早い段階で別れを切り出せていたと思う。
しかしそれらは、あくまで推測。
怖いもの知らずで、頭の足りない子供だったから出来た事だったのかもしれない。
けれども葵は、当時の自分に戻りたかった。
本来の自分を抑え付けた結果が"現在"であると分かっているからだ。
そして"現在の生活"を切り捨てるには、結婚前の……否、"結婚"を意識する前の自分に戻らなければいけないと思う。
結婚を焦る必要なんて無かった。
自分を変える必要も無かった。
違和感から目を逸らす必要も無かった。
妥協する必要だって、無かったはずだ。
しかし気付く事が出来ても、変わる事は予想以上に困難だった。
先ずは思った事を、上手く言葉に出来なくなっていた。
相手の反応が怖い。
結婚当初はそんな自分を"大人の対応"だと前向きに捉え、迂闊な失言をしなくなっただけだと思った。
けれど実際は、相手の反応が怖くて、自己保身の為にブレーキがかかるようになっていたのだ。
そして"諦め"。
話しても無駄。誰も私の話なんて聞こうとは思わない。
聞いているフリをしている人に自分の話なんてしたくないし、その白々しさに気付いた途端に話す気が失せるのだ。
気が付けば、ずいぶん無口になったと思う。
話す事も苦手になってしまったし、自分の思想を言葉にする事が困難になったと思う事もある。
実際に先日、森川と話した時にも、葵は自分の言語力の低さに恥ずかしさを覚えていたし、会話力の乏しさに打ちのめされた。
しかし過去を振り返ってみると、"特定の相手"に対して口数が少なくなるのは、現在に始まった事でも無い。
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