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貴方だけに溺れたい
第8章  根底にあるもの

脱線させたく無いほど貴重な話だと思っていた。
相槌を打ったり質問する事を忘れていたのは、目の前の景色を見据えたり、落ち着かなそうに手元の包み紙を折り畳みながら話す彼を見ていたかったからだ。

ただ同時に、葵の脳内には1つの光景が浮かんでいた。
火災により焼け野原のようになった庭に佇む青年と、地面に膝をつきながら葡萄の根を手にする初老の庭師。
勿論、事実とは異なる光景だし、親方の姿も想像だけれど、葵はその光景から森川の言う"生命力"を確かに感じとっていた。

"根っこさえ生きてれば何度でも再生出来るし、同じ花を咲かせて同じ実をつける事が出来る"
"根っこが生きていればいくらでもやり直せる"

「人に例えたら、根っこは心ですか?」

そう尋ねる事にも、躊躇は無かった。
森川は自分の話を続ける事にはやはり、多少の気恥ずかしさもあるのだろう。
「そうだね」と呟きつつ、苦笑を見せた。

「場所にもよるよ?根っこなら何処でも良いわけじゃ無いんだから」
「あ……はい」

そして理屈っぽい切り返しは照れ隠しの為なのか、困惑気味に応える森川を見ながら、葵は無意識に顔を綻ばせていた。

「森川さん、テンションが下がってる?」
「君は急に上がったな」
「……そんなにダメージ大きかったですか?」
「んー……まぁ、若気の至りって言うかね、恥ずかしい事まで思い出すから」
「あぁ……なるほど」

とはいえ森川の言う"恥ずかしい事"まで尋ねようとは思わなかった。
「誰にも言うなよ?」と念押しするように呟きながらドリンクボトルを手にする彼は本当に気まずそうに見えたし、その言葉が冗談半分だったとしても、やはり追求するような真似はしたくない。

ただ葵にとって森川の話は貴重でもあり、脳内に描かれた光景が葵自身を高揚させていたのは間違い無く、森川の言う通り、元気にはなっていただろう。

しかし今の時点で理由を尋ねられたとしても、上手く説明する事は困難だと思った。


***


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