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貴方だけに溺れたい
第8章 根底にあるもの
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「んぶっ!?」
「それなら先ず、顔を上げようか」
だから不意に彼の手が上がり、その指先で顎を持ち上げられるなんて思いもしなかった。
勿論その指は直ぐに離れたが、驚きのあまり可笑しな声をあげながら彼を見たのは言うまでもない。
ただ葵が見た時には既に彼からは憐れみが消え、かわりに不敵とも思えるような笑みが浮かんでいた。
「下を向くような話じゃ無い」
「……」
そりゃあ、そうですけど。と答えるかわりに咄嗟に前を向いていた。
肌に触れられるなんて予想外。たったそれだけも動揺する。
しかし下を向いていたのは、ノーメイクの顔を凝視されたく無いからで、ネガティブな意味では無い。
否、ある意味"ネガティブ"ではあるけれど、その件に関しては誤解はされたく無かった。
「化粧をして無いから、見られたく無いんです」
「……なに?」
「並々ならぬ事情です……」
ただ森川は単純に"女心"には疎いのかもしれない。
あるいは、今迄の状況を思い返して"何を今更"という心境なのかもしれない。
どちらにしても男性に理解を求めるのは酷な話だろうとは思うが、数瞬の沈黙の後に「それは失礼した」と前を向く彼は、やはり納得のいかない様子ではあった。
「充分、綺麗だよ」
「も、もういいですから!!」
しかし強い言葉で抗議しても微妙な空気にならないのは、彼の機転の良さだとは思う。
淡々とした口調で言う言葉は冗談だと分かっていても戸惑うが……。
「で、そこからどう解決したのかは分からないが、最終的にはどうなりたいの?」
「………」
ただ、ごめんなさい……。
「……どこまで話しました?」
その機転に此方は着いていけないから脱線なんて絶対に無理だし、これからは気になる事があっても我慢するべきかと思ってしまう。
「コギャル時代の自分を取り戻したい」
「あぁ、そうですね……忘れてました」
「その調子だと、本当に解決済みだと思えてしまうんだが?」
「……六割方……半分くらい?」
「……微妙だな」
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