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貴方だけに溺れたい
第8章  根底にあるもの

「頭では分かってるんですよ。当時の自分だったら余計な事を考えずに行動出来たり、多少の迷いや不安があっても、なんとかなるって思えてたんです。
でも今は、色々な事を考え過ぎて楽な方を選んでしまうような感じになっていて……そんな風になってしまった自分が凄く情けないなって……」

六割方?半分くらい?……確かに"微妙"だ。

しかし結局は、自分次第の問題だと分かっている。
具体的な説明が出来ないから自分自身でも混乱してしまうが、彼に結婚生活の不安や離婚を望んでいる事など言えるわけが無かった。

対して葵が話している間、森川はただ黙って前を向いていた。
何を考えているかは分からない。
ただ話の途中で溜め息を吐いたり首を傾げる葵の様子を横目に見ながら、彼は困惑気味に苦笑を浮かべた。

「そんなに深刻になる事は無いだろ?」
「……あ、いえ。やっぱり上手く説明出来ないなと思って」
「そっちか!……いや、分かってるつもりだよ。経験値が上がると臆病にはなるよね。そういう事でしょう?」
「ん……まぁ、そんな感じです。なんか、はじめは色々な感情を抑制出来るようになって、単純に"大人"になったなって思ってたんですけど……」
「うん」
「……正直、そういう自分が馬鹿みたいに思えてきて、嫌な事を我慢したり、明らかに間違ってる事なのに何も言えなかったり、こんなのいつまで続けるんだろうって……」
「うん」
「……でも、そういう不満は全部自分が選択した事の結果だから、自業自得っていうか、責任は自分にあるんだから自分で何とかしないとって思うようになってて……その為には、本来の自分っていうか、その頃の自分を取り戻したいなって思ったんです」
「……うん」
「……あ、でも、見た目とかじゃ無いですよ?行動力とか、精神的なものです」
「うん、分かってるよ」
「良かった。……でも、それがなかなか難しいなって感じだったんですけど……」




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