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貴方だけに溺れたい
第9章 喜びと切なさと、後ろめたさ
あれはやっぱり、目の錯覚だった……?
豪雨の中、街頭の灯りに照らされながら平然と歩く女性の姿を思い出しながら、葵は再び昨夜の違和感を思い返していた。
もしかしたら足が不自由なお芝居をしている?
でも、だったら何故、ひと気の無い橋の上でも杖を突いていたんだろう?
少しくらいの距離なら、問題無いのかな?
や、前に見掛けた時は、家の前でも杖は突いていたはず……。
車はちょうど女性を降ろした十字路を通り過ぎ、あちこちに残った水溜まりと、どこかから飛んできたらしきゴミや木の枝を避けながら集落を抜けようとしていた。
天気は文句無しの晴天で、夏特有の蒸し暑さよりも、からっとした秋晴れを思わせる。
ただ先々週の雨の翌日に比べれば湿度が低い。
だから、たぶん、ブナ林の光芒もすぐに消えてしまいそうなものだろう。
森林公園に到着するまでの間に、女性に対しての疑問は少しずつ薄れてはいたが、もう一度会いたいと思う気持ちが"好奇心"である事に気付いてもいた。
駐車場に入り、いつもと同じように髪型とメイクを確認してから車を降りた。
今日の服装はモカブラウンのタックインに紺色のロングスカートとミュール。仕事がら既に秋めいた装いだが、今日のような天候なら汗をかく心配も無さそうだ。
一通りの確認を終えてから公園の入口に向かう間に、いつもの場所に停まった森川の車の他に、東京都ナンバーの車が2台並んで停められているのに気付いた。と、同時に落胆の思いが芽生えたのは言うまでもない。
仕事関係の人が来ているのだろう。
そもそも森川自身が仕事で来ているのだから不自然な事では無いが、今日はいつもとは違う。それだけでテンションが下がる。
ただ明日は仕事も休みだし、今日は会ってお喋りが出来なくても仕方がないと思える前向きな自分もいた。
そして予想通り。
入口を抜けると直ぐに、事務所の前に集まる小さな集団が見えた。
男性3人。女性4人。その中で飛び抜けて背の高い森川は、いつもの茶色い作業着姿で何かを説明しているようだった。