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貴方だけに溺れたい
第9章 喜びと切なさと、後ろめたさ
服を選んでメイクを考える。
たったそれだけの問題に悩み続け、それでいて舞い上がる気持ちを抑え切れずに何度も時間を確認していた。
森川と別れて公園を出た葵は、そのまま直ぐにデパートに向かい、自分の店を含めたいくつかのショップを回り、夏物のセール品と初秋物の商品が並ぶ店内を探索した後にコスメショップへと入った。
服を買うつもりは無かったが、店内を歩き回ると色々な選択肢が沸いてくる。
スカートにするかパンツにするか、思い切ってワンピースを着て清楚な感じにしてみるか。
悩みに悩むが、森川に話していたスカートがまだ完成していない事が少し悔やまれた。
そしてコスメショップで淡い色のリップを買った後、カフェで軽く昼食を摂った。
仕事に入ってからは、ただただ時間が過ぎるのを待ち、時折、薔薇園の中を二人で歩く光景を想像したり、危うく"呂季が見た光景"を思い出してしまったりもした。
しかしそんな能天気な気分の中でも、自分を誘う時の森川の態度を思い出すと、この行動は罪なのかとも考える。
別に"不倫"をしているわけでは無いし、友人同士なら男性と二人きりで出掛けたって構わないだろう。
だけど"秘密にしたい関係"である事にかわりは無いし、事実や事情を知らない人にとっては真相なんて関係無いのだ。
だから森川は葵の事情に配慮してくれたし、待ち合わせ場所に関しても少し複雑にしたのだと思う。
勿論それはあくまで推測ではあるけれど、葵は"既婚者"である自分に対して、少しばかりの苛立ちと後悔を感じたりもした。
しかし仕事が終わり帰宅するまでの間は、現実よりも明日の事だけを考えていて、現実的な憂鬱よりも森川と過ごす時間を空想する時間の方が長かったのは言うまでもない。
家に帰り着くと、部屋の雨戸は閉まり明かり取りの窓からはリビングの灯りが漏れていた。
最近の智之はきちんと雨戸を閉めてくれている。
張り紙のおかげではあるが、たったこれだけの行為でも、今日は不思議とありがたいと感じてしまう。