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貴方だけに溺れたい
第9章 喜びと切なさと、後ろめたさ
サービスエリアに着くまでの話題は、主に"ヨネクラ薔薇園"に関する説明と、葵のアクセサリーに関する話だった。
しかし、やはり昨日の彼は、どこか"いつも通り"では無かったのだろう。
それは工房の話をしている最中、思い出したように葵の"興味"について尋ねた事で気付いた。
「ところでアクセサリーに興味ある?今さらだけど」
車は既に高速に乗っていたので、本当に"今さら"だが、葵が「はい」と答えると、心底安心したように「よかった」と言って苦笑を見せた。
「正直に言うと、後になって気が付いたんだよ。俺の知る限り、君、ピアスとか着けて無いし指輪もしてないから、アレルギーか興味無かったんじゃないかなと」
「ああ……別に、夏は手入れも大変だし、今は特に気に入っている物も無いだけです」
その答えに森川が「興味は?」と再度聞き返した事に笑ってしまったが、葵が「キラキラしたのが好きです」と答えると、漸く納得したような顔を見せた。
ただ"指輪"に関しては、葵は無意識に左手を右手の下に入れていた。
結婚指輪はピアスやネックレスと同じ理由で着けていないのでは無く、持っていないのだ。
森川が"結婚指輪"を意識して尋ねたわけでは無いとは思うが、僅かな気まずさは感じていた。
その後も森川は3つの失敗を葵に披露してくれた。
1つは時間の確認。
帰りは5時頃になるけど、問題は無いか?
2つは「メロン、ご馳走さま」
メロンに関しては、昨日の確認忘れとは関係は無いが、森川自身にとっては小さな失敗ではあったようだ。
しかし3つ目に関しては、納得はしていたものの、僅かな蟠りと形容し難い緊張感が伴うものではあった。
そしておそらく森川自身も、気まずいものがあったのだろう。
「ごめん、もう1つあった」
それはサービスエリアに着いてトイレと買い物を済ませた後に、車に戻りながら告げられた事だった。
森川自身がその事に気付いたのは、買い物の最中だったと思われる。