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貴方だけに溺れたい
第9章 喜びと切なさと、後ろめたさ
「ちょっと言いにくい事なんだけど」
「はい」
「……向こうでは、葵さんが結婚してる事は伏せておいてくれないかな」
「……ああ、はい……それはもちろん」
「ごめん。本当に情けないほど考えて無かった。……勝手で申し訳ないんだけど」
「ああ、いいえ。大丈夫です。分かってますから」
それはその返答通り、直ぐに察する事は出来た。
何しろ仕事関係だ。いくら"ただの知人"でも、人妻を連れ回すのは、印象が良くない。
ただ彼の口から"結婚"という言葉が出た時、葵は指輪を指摘された時よりも、重いものがのし掛かったような気持ちになった。
しかし"当たり前"の事に対して、いつまでも拘っているつもりは無かった。
葵の返答に対して森川は再度「申し訳ない」と手を合わせて詫びたが、逆に自分の方が余計な気を使わせてしまったようにも思う。
「じゃあ、友達って事にした方がいいんでしょうか?同業者は絶対に無理だし……弟子?」
だから敢えてふざけた質問をして、空気を変えようと試みたのだが……。
「弟子!?……いやいや、友達でいいとは思うんだけど。ただ……」
「……ただ?」
「ただ、"友達"として見て貰えるかと言えば、ぶっちゃけ、もしかしたら君にとっては迷惑な解釈をされてしまうかもしれない」
「迷惑?」
「うん。もしかしたら……というより、ほぼ確実に、恋人同士だと思われる」
「!!!」
困惑気味な笑みを浮かべる森川の言葉に、思わず叫び声を上げそうになったのは言うまでもなく、葵は彼を凝視したまま口を両手で抑えていた。
恋人同士だって!
いやいや"友達"として見て貰えないなら、"恋人"として見られる可能性もあるという事。
あくまでも"そう見られる"というだけの話だと分かっているが、妙な興奮が沸き上がるのを感じてしまった。
「取り敢えず……迷惑を掛けたぶんは、埋め合わせするから」
しかし森川自身、両手で口許を覆っていても、大きな目を煌めかせている葵の反応に少しは安心したのだろう。