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貴方だけに溺れたい
第9章 喜びと切なさと、後ろめたさ
「でも、私と森川さんとの関係なんて、わざわざ聞く人なんていますか?」
「露骨には聞かれないだろうけどね。ただ職人時代からの付き合いだから長いんだ。だから融通が利くっていうのもあるんだけど、俺なんかは20代のペーペーの頃から知られてるから、若干、面白がられてるっていうかね」
「20代って事は、この前話してた親方さんとお仕事してた頃ですか?」
「そう。……で、そこで働いてる人達って女性が殆どでね。ベテラン揃いのおばちゃん達なんだけどクセが強くて。良い人達ではあるんだけど、もしかしたら深読みされてしまうかもしれない」
「ああ、なるほど。けっこうアットホームな職場って感じなんですね」
「……まあ、そうだね。ざっくばらんというか。だから、変な事を聞かれるかもしれないけど、そこはもう、適当に流しちゃっていいから」
「はい……」
そうは言うものの、適当に流すなんて出来るわけも無い。
女性の集団の威力はよく分かっているつもりだ。
とりわけ年を重ねた女性となると、そのテンポと勢いで押し流される事もある。
失礼の無いようにも振る舞わなければ。
しかしその反面では、鋭い女の嗅覚でバレてしまうんではないかとも思う。
はたして自分が独身に見えるのだろうか?
森川の恋人に見えるだろうか?
"釣り合う"という点においては、だいぶ無理があるような気がする。
そんな不安も、無きにしも非ずだ。
「緊張してる?」
「少し……」
神奈川の一般道に降りたのは12時過ぎ。
薔薇園はそこから40分ほど走った場所にあるが、その前に昼食を摂ろうという話になった。
その原因は時間が経つにつれ口数の減っていた葵にあるが、単純に「腹ごしらえ」という理由で車を停めてくれた森川の気遣いをありがたいと思った。
そして改めて心境を尋ねられたのは、「出来れば軽いもの」という葵の要望によって決まった蕎麦屋に入ってからだった。