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貴方だけに溺れたい
第3章 屈辱と悪夢
「すいませんね。お見苦しいところをお見せしちゃって」
「……あぁ……いえ……」
「あいつら根はいい奴らなんですけど、酔っぱらうと悪ふざけが多くて……」
被害を受けた妻を前にしても、奴らのフォローか。
夫はあの元ヤン達に、弱味でも握られているのかとさえ思う。
苦笑気味に話す智之の声を聞きながら、更に苛立ちが募っていく。
そのうえ、早くこの場を離れたい一心でビールを並べる葵を指し、智之は「あ、これ、うちの嫁なんです」と、取り繕うように言葉を繋げる。
森川がどんな反応を見せているのか、葵には分からない。
困惑しているのか、それともあの気さくな笑顔で頷いて見せているのか……。
けれどもう、森川がどう思っているのかなんて、考えたくも無かった。
人前で恥をかかされ、不愉快で痛い思いまでして、夫にさえ助けられず気遣われる事も無い。
こんな自分を知って欲しかったんじゃ無い。
鼻の奥がツンと痛んだ。
胸の奥で蠢く憤懣が、今にも溢れ出してしまいそうだった。
もう、嫌だ……。
葵は痛いくらいに歯を食い縛り、智之の言葉に倣うように俯いたまま森川に向けて頭を下げると、急いで空のパッケージを持って立ち上がろうとした。
しかし腰を浮かせたところで、その行動は智之に腕を掴まれ阻止された。
「いやいや葵、ちょっと待ってよ」
呆れるような口調にカチンときてその顔を見上げると、困ったような笑顔を浮かべた智之が、溜め息まじりに淡々と続ける。
「お、しゃ、く」
「……」
「お酌ぐらいしてよ。まったくお前は……」
「……」
なんなんだろう、この男は……。
葵は怒りを滲ませた目で智之を睨み上げながら、並べたばかりの缶を強く掴んだ。