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貴方だけに溺れたい
第3章 屈辱と悪夢
叶った……。
森川の質問に頷きながら、膝の力が抜けそうになる。
しかし必死に足を踏ん張っても、急激に目の前が滲み出した。
まずい、泣きそう。
葵は急いで顔を背けると、森川に向けて"ちょっと待って下さい"と手を上げてからその場にしゃがんだ。
駄目だ駄目だ、堪えろ私!
こんなタイミングで涙なんて流したら、よっぽど惨め……いや、迷惑だから!
葵は自分にそう言い聞かせながらエプロンで目を押さえ、込み上げそうな嗚咽を抑えるように深呼吸を繰り返した。
嬉しかった。
でも、複雑だった。
願いは叶ったのに、気まずい気持ちが膨らんでくる。
胸の奥も苦しかった。
けれど森川が此処に来てくれたという思いだけで、恐怖も警戒心も、不快な記憶までもが全て吹き飛ばされたような感覚だった。
まだ今日は終わっていないのに。
まだ竹村が来る可能性だってあるのに……。
しかし葵は、最後にもう一度大きく深呼吸をしながら顔を上げていた。
竹村の事よりも、森川をこれ以上待たせるわけにはいかない。
けれどそれ以上に、森川と早く向き合いたかったのだ。
複雑でも気まずくても、早くこの先の森川を知り、彼の気持ちや言葉を知りたかった。
葵は立ち上がると直ぐに森川の立っていた方へと顔を向けた。
室内に居る自分の顔は逆光のお陰で暗く見えるだろうから、泣いたような形跡には気付かれないとは思う。
後は普通に話せれば……。
「………」
葵が見た時、森川はその場を離れて玄関の方を窺っていた。
誰かが来ないように確かめていたのだろう。
顔を出した葵に気付くと、昼間会った時と同じ微笑みに微かな困惑を浮かべながら戻って来た。
「……取り込み中でした?」
「あ、いえ……」
口調にもぎこちなさはあったが、それは葵も同じだった。